卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

アンドリュー ニューマン 

コグニザントジャパン 株式会社
プロジェクトマネージャー
1984年 カリフォルニア大学デービス校より交換留学生として、ICUに1年間留学
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価値観のギャップを埋めるコミュニケーションの在り方

情報・通信システムの設計やコンサルティング業務を行うアメリカの企業・コグニザントジャパンで働いています。プロジェクトマネージャーとして、開発者とクライアントの橋渡しをするのが私の主な役目です。今は日本の大手自動車会社のシステム開発を担当していて、お客様の意見を伺いながらインドに拠点を置く開発チームとコミュニケーションを図っています。どのような現場でもクライアントと開発担当の間に齟齬が生じてしまうことはありますが、グローバルなプロジェクトにおいては、その多くは言語よりも、文化や価値観の違いが原因となります。スムーズにプロジェクトを進めていくために、両者の間に立って双方の意図をくみ取りながら、的確に情報整理を行うことが求められる非常に重要な業務だと感じています。

こうしたプロジェクトにおいて、齟齬の発生を防ぐために必要なのは、ルールを明確化しておくことです。その人の背景にある文化が違えば、求める基準が異なるのも当然です。例えば、アメリカの開発者が日本のクライアントの仕事を受けた場合、完成度が100%でなくてもアメリカの開発者は完成としてクライアントに提出しますが、日本のクライアントは100%を求めており、食い違いが生じることが多々あります。成果物の品質、クライアントの要求への対応時間、さらには休暇の時期や取得の考え方といった項目を、プロジェクトが動き出す前にすり合わせることが重要です。こうすることで、相手への期待感をむやみに高めてしまうこともなく、齟齬が発生するリスクを大幅に減らすことができます。

もちろんそれでも双方の考え方に、相違点が生まれてしまうことはあります。そんなときは、対話を繰り返して相互が納得するポイントを探る努力をします。一方の価値観を理解しながらもう一方の要望をくみ取り、必要であれば図で可視化するなど、さまざまな方法によりコミュニケーションを円滑に行うようにしています。

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寮という名の「マイホーム」で過ごした、かけがえのない日々

日本語を学び始めたのは父の友人の勧めがあってのことです。ただ当時の私は、化学の分野に興味を抱いていたため、あまり長く日本語を学ぶつもりはありませんでした。しかし、いざ日本語を学び始める、日本語だけでなく日本文化の素晴らしさに気付き、留学したいと思うようになったのです。

ICUに留学したのは大学3年生のときです。留学先をICUに決めたのは、ある日本人の学生との出会いがきっかけでした。当時、私が通っていたカリフォルニア大学デービス校(アメリカ、カリフォルニア州デービス市に本部を置くアメリカ合衆国の州立大学です。)に、ICUからの留学生としてやってきた彼と仲良くなり、ICUの学びや雰囲気についてたくさんの話を聞きました。印象的だったのは、彼が入寮していた第二男子寮*の話で、私もその寮に住んでみたいと思うようになりました。
*第二男子寮は2015年に閉寮し、跡地には2017年に樅寮・楓寮が建設されました。

実際に第二男子寮での生活は、想像していた通りで、とても有意義で楽しい時間でした。特に覚えているのは「マイホーム」のように感じられる独自の文化です。アメリカの場合、入学後1年間だけ寮に住み、その後は2~3人でルームシェアをする傾向にあります。また寮生活では、掃除や電話番などの当番はありません。一方ICUの場合、卒業まで寮に暮らす学生が多く、学年を超えた縦の強いつながりがあります。また寮ごとに寮長/大統領と呼ばれる寮運営の代表者などが選出され、運営に必要なキッチンや共用スペースの清掃などの役割も当番制でこなします。ただ生活するための場所というよりは、自分たちが主体的に運営する、まさに「マイホーム」と感じられる場所でした。

月1回行われた、寮の運営方針を決める寮会もとてもよく覚えています。寮全体のことを皆で議論するため、19:00頃に始まり、遅いときは夜中まで議論することもありました。こうした日々の寮生活を通して、日本語スキルを高めることができたのはもちろんのこと、身をもって日本特有の「和」の文化を学ぶことができたのは、非常によい経験だったと思っています。こうして得たことが、現在の仕事でクライアントが、どのような考えをもとになぜそのような発言や要望をするのか、深く理解するのにとても役立っていると感じていますし、この寮生活の経験がなければ現在の自分はないと強く思っています。

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大学時代に異文化に触れる意義に気付いてほしい

寮生活をはじめ、日本での日々は全てがとても貴重な経験でした。大学時代と言えば子どもから大人への転換点だと思います。この時期に、自分が常識だと考えてきたことが、全く当てはまらない異なる文化に身を置き、違いを体感できたことはその後の私の考え方や生き方に大きな影響を与えました。そしてこのような経験の価値は、今の学生たちにとっても同じだと思います。ICUは、留学生の受け入れが多く、外国籍の学生も多いと思いますが、それでも海外生活の経験はやはり違います。ぜひ海外に留学するなどして、これまで触れたことのない文化や考え方を学んでほしいですね。そうすることで、自分の考え方が変わったり、日本の文化の素晴らしさも改めて実感できるはずです。

そして、せっかく留学するなら最低でも1年間は海外で生活をしてほしいです。私はアメリカで2年半日本語を学んでからICUに来ましたが、それでも初めの6カ月は日常会話もままならず苦労ばかりでした。一方で、円滑にコミュニケーションを取れるようになってからは、楽しい思い出ばかりが残っています。1学期間や半年間の留学だと、どうしてもつらい記憶になってしまう。国や文化のことも十分に理解できず、留学を苦い経験として帰国するのは、とてももったいないと思います。私も1年間の留学だったからこそ、日本の良いところと悪いところを理解し、一回り成長してアメリカに帰ることができました。

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コミュニケーションにおいて大事なのは、正確性より伝えたい気持ち

多くの日本人に伝えたいのは、英語を話すときにもっとリラックスすべきだと思います。研究によると、コミュニケーションにおいて言語自体が伝える情報はたった20%だとされています。残りの80%は声の調子や表情、手振りによって伝達されるのですが、多くの日本人はその20%にこだわりすぎる傾向にあります。もちろん正しく話すことは重要です。しかし、例えばビジネスの現場で商品の品質や値段に関してコンセンサスが取れていれば、会話の中で多少文法が間違っていても大きな問題ではありません。「伝えよう」とすること自体が大事なのだと思います。私がICUに来たときも、とにかく話すことを意識していました。後から「こう言えばよかった」と感じたことは何度もありましたが、それは次に生かせばいいのです。挑戦しなければ上達はありません。

また、海外の人とのコミュニケーションやグローバルな環境での仕事をするためには、相手の文化や歴史を理解しておくことがとても大切です。国の成り立ちや国民性を事前に把握しておけば、発言の真意をより正確に読み取ることができます。そういう意味で、ICUでさまざまなバックグラウンドを持つ学生とともにリベラルアーツを学ぶことは、これからの社会を生きていく上でとても大きな意味があると思っています。

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写真左:今でも大切に保管している第二男子寮の在・不在を示す木札。第二男子寮は2015年に閉寮、跡地には2017年に樅寮・楓寮が建設されました。
写真右:第二男子寮の跡地に建設された樅寮・楓寮のラウンジ「第二男子寮の間」に飾られたプレート。このラウンジは、第二男子寮卒寮生の有志により命名、寄付された。(プレートの英訳はニューマンさんが担当)

Profile

アンドリュー ニューマン

1984年 アメリカ カリフォルニア大学デービス校より1年間交換留学生としてICUに在籍

カリフォルニア大学在学中にICUに留学。1995年、ニューヨーク州コーネル大学にてMBAを取得後、複数の企業にてコンサルタントやプロジェクトマネージャーを歴任した。2017年11月よりコグニザントジャパンにて勤務し、グローバルプロジェクトにおいてコミュニケーションを円滑に行うためのマネジメント業務を担当している。

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