卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

深町 英樹 
一般社団法人GEMSTONE
代表 / ビジネスプロデューサー・経営コーチ
2003年 教養学部国際関係学科(当時) 卒業

「想い」や「志」が輝く事業をつくる

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新興国の社会課題解決につながるビジネス開発

私たちGEMSTONEは、新興国における事業の開発・実行支援を軸としながら、コンサルティング、コーチング、伴走支援など、その時々のケースに応じた関わり方で、事業や組織づくりのサポートを行っています。

現在取り組んでいる活動は大別して2つあります。ひとつはミャンマーにおける図書館振興・事業展開支援。この活動では、日本国内の図書館運営を専門とする企業から委託を受け、事業の企画・構想段階から、現地のニーズ調査、ビジネス環境調査、官民連携の構築、現地パートナーの発掘・関係構築などの実行段階まで、一般的なコンサルティングサービスに留まらない支援を提供しています。図書館振興を通じてミャンマーの子どもたちの考える力を育み、ミャンマーのより良い未来をつくることを目指し、委託元企業と二人三脚で取り組んでいます。

もうひとつは「新興国ソーシャルベンチャー共創プログラム」という事業。日本の社会人チームがインドネシアの現地ソーシャルベンチャーの経営課題に3ヶ月間取り組むプログラムを企画・運営しています。このプログラムでは、遠隔でのワークやオンライン会議に加えて、参加者が現地へ2回出張し、経営や事業に参画。新興国の社会起業家が持つ課題を解決すると同時に、参加者がこのプログラムを通して自分の可能性を拓き、自分らしく生きていくファシリテーションを行っています。

新興国の社会課題解決につながるビジネス開発は、前職の共同設立した会社でも実施してきたのですが、GEMSTONE設立を機にアプローチの方法を大きく変えました。それまでは、例えばクライアントから「事業を起こしたい」と相談されたら、市場調査を行い、マーケットを分析して、理想的な戦略案を作るといった、いわば戦略コンサルタント然とした進め方をしていました。これは一般的なビジネスの手法で、決して悪いものではありません。しかし、事業は人々の「想い」や「志」から成り立っている側面が大きく、ロジックだけでなく感情面も織り込まれた事業の方がうまくいくのではないか。私自身、そういう事業が華開いてほしいと願っている。そうした考えに至り、戦略的なアプローチを行う前に、「なぜその事業をやりたいのか」「その事業で自分の人生や世の中はどう変わるのか」といったクライアントの「想い」の部分を重視するようになったのです。

実際にアプローチの方法を変えて実感したのが、大切な「想い」を軸にすると人が生き生きと仕事に取り組み、事業は持続可能なものになり、結果として良い成果につながるということです。私自身も大きく変わり、より100%に近い自分、言うなれば「自分の全体性」を発揮できている気がします。ビジネスにおいて、とりわけ組織に属していると「100%の自分」を使うことはなかなか難しいですが、今の環境になって「やっと利き手が使えるようになった」というような喜びを感じながら、日々仕事に向かっています。

人生の方向性を決定づけるテーマにICUで出会えた

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ICUでは主に国際開発を学び、その後も海外と関わりながら仕事をしていますが、その原体験は、6歳から8歳まで過ごしたパキスタンでの生活です。父がパキスタンで研究に従事しており、そこで接する人々は王族のようないわゆるエリート層が大半でした。もちろん彼らは豊かな生活を送っており、私たちに対してとても温かく接してくれました。一方で、道端には死んだような目で物乞いをしている自分と同年代の子どもたちが座っていて、そうした光景が幼少期の私になんとも言えない違和感を植え付けたのです。

大学進学では、国立大学とICUのどちらに進学するか迷いました。国立大学でパキスタンの公用語であるウルドゥー語を学ぶことを考えましたが、早い段階で専門領域を絞ることへの抵抗感が否めず、リベラルアーツの名のもとに広い世界を探求できるICUを選択しました。当時の国際関係学科に所属し、国際開発の中でも教育分野の学びに熱を入れました。研究テーマは「開発途上国におけるノンフォーマル教育」。公教育からこぼれ落ちてしまった子どもがどのように教育を受けるか、といった内容です。ユネスコで新興国の識字教育などに尽力された千葉杲弘先生(元ICU教授)に惹かれて選んだテーマでしたが、「自分が学びたかったことはこれだったんだ」という確かな実感がありました。現在の仕事にも直結している内容であり、人生の方向性を決定づけるテーマに出会えたことは非常に大きな出来事でした。

在学中は、座学だけでなく海外での学びも数多く経験しました。1年次に短期留学でカナダに行き、2年次には授業の一環でフィリピンの農村調査を実施。他にもカンボジアでのスタディツアーを企画したり、カンボジアの図書館事業にインターンシップで参画したりと、長期休暇の度にテーマを設定して海外に出ていく体験を繰り返していました。

こうしたアクションを起こすにあたって、興味を持った問いを探求できるICUの環境と出会った仲間の影響は大きかったですね。パキスタンの話題で盛り上がり、新興国の教育課題について熱く語り合えるような、それまで出会ったことのないタイプの友人から多くの刺激を受け、いろいろなことにチャレンジできました。課外活動も、学園祭の実行委員会をはじめ複数の団体に所属しながら、現在もよりアクティブに運営されているランニングサークル「Runners」を立ち上げるなど精力的に取り組んでいました。私は仕事柄、人生の浮き沈みを表した「人生曲線」というグラフをよく使うのですが、大学時代はその曲線が常に最も高い位置にあります。良い事ばかりではなく、落ち込む事や失敗も同じくらい経験したとも記憶していますが、とても幸せな学生生活だったと思います。

本当に自分が生きたい人生を送るために

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ICUで学んで何より素晴らしかったと思うのは、多様性が尊重される環境です。「国際」という冠はついていますが、国際的であることを強要されたことはないですし、英語が得意ではない人もいました。問うことを否定されなかった経験も大きなポイントでした。組織に属したり、環境によっては、問いを持ち続けたり探求したりすることを是としない風潮が時折見られますが、多様性の中で自分の可能性を探求し、問い続けることを奨励された環境は、ICUのパワフルなところだと感じます。

こうした環境の中で学ぶ、あるいはこれから学ぼうとする学生には、「本当に自分が生きたい人生を考えてほしい」ということを強く伝えたいですね。自分が生きたい人生のために、何が自分に力を与えてくれるのか、どんな人に囲まれたら幸せなのか。そういったことを常に意識してほしいと思います。

ICU生は、在学中も卒業後も、自分の人生を生きようとしている人が多いと感じます。そういう人と接していると、「自分もそれでいいんだ」と思えるし、さらなる刺激が受けられる。卒業生を見ても皆さまざまな職業に就いており、海外で活躍している人も数多く見られますが、良い意味で「どこにいても私は私」という雰囲気を感じます。また他者に対しても肩書や先入観で人を判断しないので、フラットに付き合える人が多いです。

大学での多様な経験を通して、学びたいテーマや自分の進みたい道を見つけることは大切です。私の場合、それが国際開発でした。同時に「なぜ、それに惹かれるのか」「どういう瞬間が、自分の人生を豊かにするのか」といったことを、身体的な感覚で覚えてほしいのです。それは、「燃えるように熱い」とか「動き出したくてたまらない」といった感覚です。こうした感覚が、今後生きていく軸になり、困難に直面したときも乗り越えられる糧になるでしょう。賢い学生はつい頭を使いがちになりますが、身体的な感覚が教えてくれる情報は貴重なので、迷ったら自分の心に素直に聞いてみることをお勧めしたいです。

Profile

深町 英樹
一般社団法人GEMSTONE代表 / ビジネスプロデューサー・経営コーチ

2003年 教養学部国際関係学科(当時) 卒業

幼少期をパキスタンで過ごす。国際基督教大学卒業後、ヤンマー株式会社で北米新規事業開発、米国駐在、経営企画・M&A等に従事。イギリス・オックスフォード大学MBA、JETRO・アジア経済研究所開発スクール修了後、NPO勤務等を経て、2015年に株式会社オリナス・パートナーズを共同設立。新興国における企業の事業開発・実行支援等を推進。2017年、事業領域拡大と経営体制変更に伴い、一般社団法人GEMSTONEを設立。

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