卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

焼家 直絵 
国連WFP日本事務所代表
1996年 教養学部国際関係学科(当時)卒業

国際協力の仕事を目指す人たちへ

Ms.yakiya

国連WFP日本事務所代表になるまで

私は、2017年6月からWFP 国連世界食糧計画(国連WFP)日本事務所の代表を務めています。国連WFPは、飢餓のない世界を目指して活動する、国連の人道支援機関です。毎年約80カ国において、およそ8,000万人に対して食糧支援を行っています。職員の多くは途上国の現場で活動し、飢餓に苦しむ人々を最前線で支援しています。

WFP日本事務所は、日本政府および民間企業からの資金調達・支援調整、また日本政府や企業とのパートナーシップ構築、そして日本における広報活動などを行っています。私たちの活動は、各国政府および民間からの任意拠出金によって支えられているため、支援の必要性を説明したり、各国における支援の成果を報告したりすることも大切な仕事です。

ICUを卒業した後は、オーストラリア国立大学大学院に進学し、国際関係論で修士をとりました。その後、民間企業やNGOを経て、国連ボランティアとしてイラク、コソボ、東ティモールなどで海外支援の仕事をする傍ら、外務省が行っている「*ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)」の試験を受けて合格しました。そして、2001年から3年間、国連WFPローマ本部で勤務することになります。JPO としてのキャリアが3年目に入り、国連WFPで正規職員のポストを探していたところ、「ブータンのプログラム・オフィサー」というポストに空席があったため、ブータンに正規職員として着任しました。その後、日本事務所の支援調整担当を経てシエラレオネ、ミャンマーで勤務し、2017年から現在のポジションで仕事をしています。

*JPOとは、国際機関と各国政府の取り決めに基づいて、各国から国際機関に派遣される非正規の専門職員のこと。この制度は、国際公務員を志望する若者に、国際機関での勤務の機会を与えることにより、国際公務員に必要とされる経験と知見を養うことを目的としている。

Ms.yakiya

「自分が試されている」と感じた、シエラレオネでの体験

2013年から15年まで、西アフリカのシエラレオネ事務所で、副代表および支援事業責任者として緊急支援活動を率いました。シエラレオネは「栄養不良率」が世界で最も高い水準にある国です。さらに、各家庭には水も電気も通っていないため、水は給水車で運び、電気もジェネレーターで供給しているような状況でした。このような状況にある国で大きなチャンスを与えられ、使命感と緊張感を抱えながらの着任でした。

さらに翌年には、「エボラ出血熱」の感染が急拡大して、深刻な事態となり、日本政府による避難勧告により、ほぼすべての在留日本人が撤退を余儀なくされました。もちろん、日本人だけでなく現地スタッフも危険にさらされていることには変わりありません。10年間に及んだシエラレオネ内戦では多数の死者を出し、人々を疲弊させましたが、彼らは「現在の事態は、内戦のときより恐ろしい」と語っていました。誰もが、感染症という目に見えない、正体もわからない敵に対する恐怖を感じていたのです。

そんな状況の中、私は「国連職員として、自分が試されている」と感じました。この難局において、自分はどんな判断を下すことができるか。それが、私のキャリアにおけるターニングポイントになるだろうと思ったのです。私たちのミッションは「感染地域やエボラ治療センターで食料支援を行う」ことですから、感染リスクを考慮しなければなりません。そこで私は現地に残り、「万一、エボラに感染するような結果になったとして、私は後悔するだろうか?」と自問しました。答えは「No」でした。私たちより感染リスクの高い現地の医療スタッフが献身的に働く姿に心を動かされたことに加え、私自身も、現地のWFP職員との一体感を感じていたからです。私の行動を支えていたのは、「Leave no one behind(誰も取り残さない)」というSDGs(2015年に国連で採択された『持続可能な開発目標』)の理念でした。

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国連で働くことが「憧れ」から「目標」に

高校時代から、いつかは国連や国際協力の仕事に携わりたいと考えていました。ICUに進学したのも、多様な人たちが集まる環境に身を置くことで、国際的な考え方や視点を身につけたいと考えたからです。

ICUでは、国連など国際機関での勤務経験を持つ教員も数多くいたので、講義では、貧困問題、人口問題、平和問題など、いま世界が直面している課題について深く学ぶことができました。また、国際機構の仕事についての理解も深まり、それまでは漠然と"憧れ"を抱いていた「国連での仕事」「国際貢献の仕事」が、明確な輪郭をもった"目標"に変わっていきました。さらに、プレゼンテーションやグループディスカッションを通じて、「人権法」や「ジェンダー」といったテーマについて、もっと理解を深めたいと感じるようになりました。ICUには、このように知的好奇心を刺激される授業が多かったことを思い出します。

特に、ICUにおける教育の特徴であるリベラルアーツ教育は、現在の仕事に大いに役立っていると感じています。私たちの仕事では、まず、経済動向など、さまざまな統計指標を収集・分析して、世界のどの地域に支援が必要かを判断します。そして、そうした指標などを用いて、多くの人に「なぜ、その地域に支援が必要なのか」を納得してもらわなければなりません。その過程では、理系的資質・文系的資質の両方が求められるのです。理系・文系の枠にとらわれることなく学び、知識の集積ではなく自分の頭で考え抜いて答えを導く訓練を積んだことは、私にとって大きな財産です。

Ms.yakiya

国際協力の仕事を目指す人たちへ

現在、ICUで学んでいる学生の中には、将来、国際協力の分野で活躍したいと考えている人もいると思います。このような仕事の現場では、職務上の技術や資質はもちろん必要ですが、最も大切なのは「この人と一緒に仕事をしたい」と感じてもらうことです。国連WFPに限らず、国際機関では、空席のできたポストに対して求人を出すことが一般的ですから、1ポストについて選ばれるのは1人です。そのため、適応力やコミュニケーション能力、ひいては「人間力」が重要視されるのです。

コミュニケーション能力と言うと、しばしば「自分が伝えたいことを流暢に話す能力」と誤解されがちですが、そうではありません。「相手が伝えようとしていることを"聴く"能力」こそが大切なのです。ICUには、多種多様な人たちとの『対話』を通して、こうした能力を身につけることのできる教育の土壌があると思います。

国連WFPには、財務、金融、商社、物流、情報通信、栄養、統計調査、パイロットなど、さまざまな経歴をもつ職員が集まっています。自分の得意分野、興味のある分野からアプローチするのがいいでしょう。もちろん語学力は大切です。国連公用語は英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語の6か国語ですが、この中から英語プラス1言語を使えるようになっておくとよいと思います。

私は、国際機関で働くことの魅力は、「国際的な課題解決に携わることができる」ことだと思います。さらに、「異なる文化を背景に持つ人たち、高い意識を持った人たちとともに仕事をすることで、自分自身の成長が実感できる」ことも大きな喜びです。世界を舞台に、創造性豊かな仕事をしたいと考えている学生たちに、ぜひ目指してほしいですね。

Profile

焼家 直絵(やきや・なおえ)
国連WFP日本事務所代表

1996年 教養学部国際関係学科(当時)卒業

広島市生まれ。2001年からWFP(国連世界食糧計画)ローマ本部でジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として国際機関支援調整の仕事をした後、ブータン、スリランカ事務所にてプログラム・オフィサー、支援調整官として勤務。2009年から日本事務所にて資金調達を担当。2013年からシエラレオネにて副代表としてエボラ緊急支援など現場を指揮。2015年からミャンマー副代表、2017年6月から現職。

/Ms.yakiya