在学生・教員の声

田中 勇輝 (たなか ゆうき)教養学部4年(インタビュー時)

メジャー:経済学

自分の可能性を広げる無限の機会

世界の水問題を解決するには

ICUに入学を決めた理由の一つは、「リベラルアーツ・カレッジ」であることです。高校生の時に住んでいたオーストラリアでは、干ばつや洪水などの水による災害が身近に起きており、どうすればこの問題を解決することができるのだろうと思っていました。ある地域では洪水が問題になっている一方で、他の地域では水不足だったことから、ぼんやりと水資源の適切な分配が問題解決の鍵なのではないかと考えていました。まだ当時は学びの道筋がなかったので、大学では「特定の分野を学ぶ」のではなく、水問題を解決するために必要なさまざまな分野を「リベラルアーツ」を通して学びたいと思い、ICUに興味を持ちました。

もう一つの理由は、アメリカのリベラルアーツ大学をはじめ、イギリスの有数の大学やオーストラリアの大学などにICUから交換留学できることです。私は高校の時にオーストラリアの現地校に通っており、当時は現地の大学へ進学することを希望していましたが、両親の仕事の都合で高校卒業前に日本に帰国することになってしまいました。海外の大学で学べなかったことが心残りだったので、在学中には必ず交換留学することを決め、自分が留学を希望する大学への留学の機会があるのかという基準でも、ICUは魅力的でした。

好奇心を刺激する「自由」な学び

ICUに入学して感じたのは、本当に「自由」な学びが可能であるということです。自分の興味にあわせて授業を選ぶことができるので、1年次の春学期は数学と物理、秋学期は国際関係と経済、冬学期は歴史・哲学・政治、そして2年次は文学など、本当にさまざまな分野を学びました。その中で特に興味をもったのが、政治哲学と経済学です。政治哲学では多様な考え・価値観が世の中には存在することを前提のもと、平等とは何か、自由とは何か、そして自由と平等は両立するのか、どんな社会が理想なのかなどを学びました。他方の経済学では、医療や社会保障の分野などにおける資源配分の問題に対して、なぜ非効率な状況が起きているのか、統計などを用いて実証的に考えるアプローチを学びました。どちらの分野もとても興味深く、好奇心が刺激されましたが、最終的には経済学をメジャーにしました。

専門の分野で論文を書く力を磨く

ICUの特徴である英語プログラムのELP*も、大学で学ぶための基礎を築くのにとても役立ったと思います。ライティングの課題が多く、高校までで使用していた英語とは異なる学術的な英語を書く力を身につけることができました。

また、数年前から設けられた「W(ダブル)コース」**という、ある特定の専門分野に特化した英文ライティング力を向上させるためのコースはとても素晴らしいと思います。交換留学先で「哲学」という分野を学び分かったことですが、学術的な英文を書く力を持っていても、学問分野によって論文を書く作法が異なるため、その分野特有の作法を身につけておかなければ、適切な論文を書き上げるのが困難だからです。例えば、留学前まで慣れていた社会科学の論文の書き方は、「私は、Aだと考える。なぜならばそれは次の3つの理由からだ」というように、帰納法的に自分の主張に対してそれを補足する事例を加えていく構成でした。しかし、「哲学」分野の論文では、三段論法のような演繹的に妥当する自分の議論をつくり、それぞれの理由や前提に対して肯定や反対意見を説明することで、自分の主張の正しさを立証していく構成などが特徴的でした。留学した当初は、このような作法に全く慣れていなかったので、もし留学前にこのことを知っていて、「Wコース」で該当する分野が開講されていたのであれば、受講したかったと思いました。

*ELP: 2011年度まで実施されていたEnglish Language Program。2012年度よりリベラルアーツ英語プログラム(ELA:English for Liberal Arts Program)に変更。

**Wコース:専門分野に相応しいライティング力を養うため、英文レポート作成の指導を手厚く行う専門科目。経済社会を牽引するグローバル人材育成支援」の本学取組の柱の一つ。

自分の考えが常に求められる

交換留学先は、入学当初から留学を希望していたイギリスの「London School of Economics and Political Science(LSE)」です。経済や政治に強い大学で、ICUで学んだ政治哲学と経済の知見を実践的に応用する「公共政策の哲学(応用倫理学)」などを学びました。

LSEに留学して驚いたことは、授業スタイルが日本と大きく異なることです。授業は講義とディスカッションクラスで構成されているのですが、講義の時間は自分が出席の必要性を感じなければ出なくて構いません。講義とクラスへの出席は成績にまったく加味されず、成績は年度末の試験のみで判断されます。授業内容に追いついて来ているかの確認は、ディスカッションクラスでいかに自分の意見を文献課題に対して批判的に述べることができるか、で判断されます。しかし、このクラスもあくまで学習補助でしかなく、学びへの自主性が大きく求められていると感じました。

ディスカッションでは現実的な問題のみを論じるのではなく、概念や言葉の定義について論じるのが特徴でした。例えば、プライバシーに関するディスカッションの場合、「プライバシーはどこまで保護されるべきなのか」などがよく議論されますが、LSEでは「そもそもプライバシーとは何か。それ自体に価値はあるのか。守るべきものなのか」ということが議論のテーマでした。自分が発する概念や言葉の一つひとつに明確な定義が求められ、自分の意見に対しても「それは、違う」と、鋭く指摘されるので、自分の考えを支える確固たる論拠をもつために、常に文献を読み込み自分なりに解釈し、考えを必死にまとめていました。このような経験は大変価値あるものだったと思います。

苦労は必ず役に立つ

後輩から留学したほうがよいかと相談を受けることもありますが、必ずしも全員が留学に行く必要はないと思います。例えば、今日本で成し遂げたい明確な目標がある人はまずそのことに取り組んだ上で、必要になったとき海外に渡ればよいと思います。一方で、これに当てはまらず海外に少しでも興味がある人や、留学に行ったほうがよいのかなと考えた経験のある人には留学することを勧めます。

自分の場合、過去に留学経験があるにも関わらず、ロンドンでの異なる文化・言語環境の中で自分の思いや考えが想像以上に相手に伝わらずとても苦労しました。日本で日本人として過ごしている時には経験する機会が少ないと思いますが、イギリス社会で日本人として過ごす、つまり自分が「マイノリティ」の立場で触れる社会・文化を経験することは、いつでも多様な価値観を肌で知る機会となり、必ず将来の役に立つことだと思います。

ICUは、何がしたいのかを主体的に探すことが求められる大学で、大変な一面があるとは思いますが、それは言い換えるなら自分の可能性を広げる機会が無限に広がっているということです。ぜひ、ここICUで自分の可能性を広げてください。