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メールマガジン Message from ICU, No.3 「No One Should Be Left Behind」

公開日:2020年8月6日

春学期の3か月間、学生の姿を失って、あらためて大学という場の意味、その中のICUの存在意義を考えさせられました。ICUのオンライン授業対応は、学内外から「迅速」「誠実」と高評価をいただきました。それは普段からのICUコミュニティの団結力の賜物だったと思います。

しかし同時に、本学が誇っていた、あるいは特徴としていたものの中に、裏目に出たものもあります。それは国際性、寮生活、そして学費です。

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Message from ICU , No.3(2020年7月15日発行) 

No One Should Be Left Behind

- 国際性、寮生活、学費が「リスク」でなくなる日まで -

学生部長 加藤 恵津子

2020ml_no3_img01.jpg6月30日、100名超の夏季卒業生がICUを巣立ちました。その多くは、コロナ禍のため、4月1日以降キャンパスに足を踏み入れることができませんでした。

満開の桜のトンネル、萌える新緑、チャペル前のつつじ、紫陽花を目にすることなく、学生たちは去っていきました。せめてものはなむけにと、ICUはオンラインの卒業祝いをライブ配信し、例年のように卒業生を一人ずつ呼名しました。

春学期の3か月間、学生の姿を失って、あらためて大学という場の意味、その中のICUの存在意義を考えさせられました。ICUのオンライン授業対応は、学内外から「迅速」「誠実」と高評価をいただきました。それは普段からのICUコミュニティの団結力の賜物だったと思います。

しかし同時に、本学が誇っていた、あるいは特徴としていたものの中に、裏目に出たものもあります。それは国際性、寮生活、そして学費です。

2020ml_no3_img04.jpg「国際」の名を掲げる日本の大学は他になかった1953年の献学以来、ICUは、日本社会から新しい大学としての期待を背負ってきました。冒頭に述べた「6月卒業」は、コロナ禍で最近とみに話題になったけれどあっという間に立ち消えた「9月入学」とともに、ICUでは当たり前のように、「4月入学・3月卒業」と共存しています。この「9月入学・6月卒業」の制度により、ICUは半世紀以上にわたり、留学生や帰国生を何のためらいもなく受け入れてきました。近年では4月にも留学生、帰国生、国際学生(国内の日本語学校などの卒業生)を積極的に受け入れており、もはやガイコクジン学生とニホンジン学生の区別は意味を失いつつあります。また、一学期間の短期留学も促進しているため、ICUには一年中、いろいろな国からの学生が絶えず出入りしていることになります。

コロナ禍では、このような国際性が大きなリスクと混乱を招きました。2月頃から、中国や韓国、続いて欧米などの多くの地域が渡航や入国制限の対象となり、「日本に行けない」「母国(または親のいる国)に行けない」「命の安全のためには日本と母国のどっちにいたらいいのかわからない」といった事態が、学生のあいだで多発しました。これから9月に向けても、新入生や海外留学予定者に対して、大学としてどのような指示を出すかは難しい問題です。オンラインによる履修を組み込むなどしても、こうした混乱は今後1、2年は続くでしょう。

2020ml_no3_img02.jpg 第二に、寮生活が大きなリスクとなりました。寮を、民主的なコミュニティ運営の学びの場であるとし、寮生自身がルールを作る権限を持つとする「自治寮」の考えは、献学時以来のICUの誇りです。寮生はもめごとに対して自分たちで解決の道を探り、かつ多様で個性的な寮文化を育んできました。ICUの寮は東京に所在する大学では珍しく、全てキャンパスの中にあります。現在では約800人の学生(全学生の3分の1から4分の1)が、昭和の香りのする歴史的建造物から7階建てのマンション型ビルまで、バラエティに富んだ10の寮に住んでいます。

しかし、居室、トイレ、キッチン、リビングルームを共有する寮は、パンデミック時にはクラスター感染のリスクがきわめて高くなります。このため3月から4月初頭、寮生に一時退居を勧告し、約600人が自主退居しました。学生たちからは、多くの困惑、不満の声が出ました。

この時私が思い出したのは、かつて国語の教科書で読んだ物語です。学童疎開の船が、アメリカ軍の攻撃で沈没する時、教師が、甲板で震えている子供たちを片っぱしから抱き上げ、海に放り投げる場面です。沈む船と一緒に海底に引き込まれないよう、飛び込む勇気がない子供たちをできるだけ遠くに放るのだ、という記述があったと思います。私も学生が何と言おうと、他に居場所がない者以外、危険な場所からできるだけ遠くに放り投げたのです。今後、大学を通常に戻していく際も、寮は、最後までもっとも慎重な決断と扱いを要するでしょう。

2020ml_no3_img04.jpg第三に、高い学費も大きなリスクです。質の高い少人数教育を実践している環境ではありますが、私大の中でも高額なICUの学費を、誇ることはできません。しかしそれが生み出す費用対効果、つまり学費に見合う教育やケアを大学が学生に提供しているかは、学生満足度という項目のある大学ランキングを見れば明らかです。Times Higher Educationの2019年の調査、雑誌『AERA』が時折掲載する調査などからは、ICUが日本の大学、少なくとも私学の中でトップにいることがわかります。「ICUの教育を受けられるなら、高い学費を払ってもかまわない」と考えてくださる少なからぬ保護者の存在が、この大学を支えているのです。

しかし、そのような経済状況や家庭環境にない学生の姿が、コロナ禍で次々と明らかになり、その数は想像以上でした。入学時から貸与型奨学金(いわば借金)とアルバイトに学費を負っている学生、不安定な親の収入がコロナ禍でさらに打撃を受けた学生、そもそも親に依存する環境にない学生も、実は多くいるのです。

このためICUでは、ICU同窓会、JICUF(日本国際基督教大学財団:ニューヨークに所在するICUの支援財団)の支援の下、同窓生、教職員などからの寄付により、秋学期の学費を免除する奨学金「COVID-19緊急特別給付金」を設置し、約100人の学業継続を支えようとしています。またICU教会からは、アルバイト収入の激減などで生活費に困っている学生に対し、「かけこみ募金」による支援をいただいています。

国際性、寮生活、学費。これらはパンデミックにおける足枷です。しかし同時に、ICUの特徴をあらためて浮き彫りにもしてくれます。移動が禁じられている今、私たちは国境を越えて勉強することの重要性を痛感し、なんとしてもこれを続けようとしています。寮を退居するときに悲しみ、怒った学生たちは、どれほど寮生活を愛しているかを教えてくれました。学費の支払いに苦しむ学生たちの存在は、経済的に無理があるにも拘わらず、ICUの教育を選んでくれた人がそれだけいることを教えてくれています。

これだけ学生が期待してくれるのならば、ICUは"No one should be left behind"※1との決意を新たに、再びみんながキャンパスで会い、ありがたいとも思わないほどそれが普通になる日まで、互いを信頼し、互いに感謝し、守り合って生き抜いていこうと思います。

※1:「誰も置き去りにしない」。独立専門家グループが、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年、国連持続可能な開発サミットにて採択)に対し、人権を忘れるなとの批判を込めて掲げた言葉の一部。これに"...and no human right ignored"(誰の人権も無視させない)が続く。

 

参照:OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)ホームページ:
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsvID=20262


加藤 恵津子 プロフィール

2001年、トロント大学(カナダ)人類学博士。2002年よりICU教員。2009~2012年、2017~2018年ジェンダー研究センター長。2018年より学生部長。主要著書に『お茶はなぜ女のものになったか』(2004年)、『「自分探し」の移民たち』(2009年)、『グローバル人材とは誰か』(20016年、共著)など。


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