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2015年 春季入学式 日比谷潤子学長 式辞

公開日:2015年4月10日

聖書朗読箇所:ルカによる福音書 第12章第48節b

「多く与えられた者からは多く求められ、多く任された者からは更に多く要求されるのである。」

教養学部、大学院博士前期課程、後期課程新入生のみなさん、おめでとうございます。ディッフェンドルファー記念館のスクリーンで、この式をご覧になっているご家族、ご親戚、ご友人の方々にも、お祝いを申し上げます。

国際基督教大学は今年度から、教養学部一般入学試験に新科目「総合教養(ATLAS)」を導入しました。ATLASとは、Aptitude Test for Liberal ArtS の頭文字をとったものです。この名称には「ICUのリベラルアーツ教育の世界を俯瞰する地図」という意味合いが込められています。今年の2月7日にこの試験を受けたみなさんは実際に体験したとおりですが、あるテーマについて、高校までの国語、地理、歴史、公民、数学、理科、外国語の要素が総合的に含まれた講義を聴き、関連する設問に解答するという形式の科目です。個別の科目ごとの能力ではなく、的確な判断力、論理的な思考力、これまで学んできた知識や考え方を柔軟に問題解決に応用する意志や力を評価することを目的としています。主体的な研究能力や問題解決能力を重視するのは、大学院の入学選考においても同様です。

今日、ここに集まっている教養学部1年生のみなさんの中には、一般入学試験以外、つまり帰国生特別入学試験、ICU特別入学選考、社会人特別入学試験、指定校推薦入学試験で入学した人も多数いますが、後者のグループの新入生も含め、昨年大学公式ウェブサイトにアップされたサンプル講義を聴き、問題に答えてみたのではないでしょうか。サンプルのテーマはワインで、その長い歴史と広い世界、言語表現、言語のみでは表せない感覚、自然理解等、人間社会とワインのつながりをさまざまな局面から論じるものでした。この講義の後半には、ICUを表現するブランド作りの一環として、南アフリカ共和国で葡萄園を経営する卒業生ご夫妻に依頼し、21世紀初めに「武蔵野クロス」という名前のワインが作られたという話が出てきます。

さて、みなさんは南アフリカときいて、何を思い浮かべますか。ダイアモンドに代表される豊富な鉱物資源、あるいは特色ある生物種からなる生態系でしょうか。2010年に開催されたFIFAワールドカップという人もいるかもしれません。私の答えは、ネルソン・マンデラ第8代大統領です。1964年には、反アパルトヘイト運動により終身刑の判決を受けましたが、1980年代半ばに国内各地で人種隔離政策への反対運動が激しさを増し、国外からも厳しい批判が続きました。当時私が学んでいた米国の大学でも、ちょうどICUのキャンパスで言えば、この入学式の後、記念写真を撮影する本館前の芝生にあたるところに、抗議活動をする学生のテントがずらりと並んでいたのを、よく覚えています。27年にわたった獄中生活は1990年にようやく終わり、1994年の総選挙で大統領に就任、アパルトヘイトは撤廃されました。

ところで南アフリカは、20以上の言語が用いられる多言語社会で、現在の公用語は、英語、アフリカーンス語、ズールー語、コサ語、北ソト語、ソト語(Sotho)、スワジ語、南ンデベレ語、ツォンガ語、ツワナ語、ヴェンダ語の11言語です。英語とアフリカーンス語を除く9つは、おそらく初めて名前を聞く人も多いかと思いますが、いずれもバントゥー諸語に属しています。

2番目に挙げたアフリカーンス語は、オランダの植民地だった時代(17世紀)のオランダ語を基礎に、フランス語やドイツ語等のヨーロッパ言語、やはり旧オランダ領だったインドネシアから渡ってきたマレー人がもたらしたマレー語、それに現地の諸言語が融合してできた言語で、旧白人政権のもと、南アフリカの正式な国語となりました。「アパルトヘイト」もアフリカーンス語の単語で、「アパルト 分離、別々」+「ヘイト 状態」という意味です。私が大学に入学した1976年の6月に起きたソウェト蜂起は、このアフリカーンス語を学校で学習することを強制する法令に反対するアフリカ系学生の抗議行動に端を発したもので、全世界に衝撃を与える大暴動に発展し、その後、映画や小説の題材にもなっています。

マンデラは、白人支配の象徴、圧政者の言語とみなされていたこの言語の習得に、自らの意志で進んで取り組みました。アフリカ系住民を抑圧する人々の心に訴えたいのであれば、何よりもその人々の言葉を理解し、その言葉で話すべきだと考えたからです。収監中はアフリカーンス語で積極的に看守とコミュニケーションをとり、やがて看守たちの方から、この反アパルトヘイト運動の闘士のところに話をしにくるようになりました。

みなさんが今日入学した国際基督教大学は、人類社会の平和的発展に寄与する人材を育成することを目指して、1953年に開学しました。その前年に当時の文部省に提出された『大学の目的と使命』には、「日英両語を学園用語として、国際的学園生活を実現する」と謳われています。以来、本学は60年以上にわたり、日本語と英語という2つの言語によるバイリンガル教育を徹底して堅持してきました。それは、異なる文化、言語、宗教、価値観、生活習慣のもとで育った異質な他者との出会いのなかで、共通の言葉を探し、理解を深め合うことにより人間関係を構築していくことが、本学の理念の実現に不可欠な営みであると確信するからです。この2言語に加えて、世界の言語プログラムでは、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語、中国語、韓国語を開講してきたほか、今年度からは加えてイタリア語、アラビア語、インドネシア語のコースも始めます。

最初に触れた総合教養のサンプル講義では、ワインに「武蔵野クロス」という名前を付けた理由の1つとして、世界中からやって来る学生たちのさまざまな文化が、ICUでクロスオーバーすることが挙げられています。マンデラは、「相手が理解できる言語で話せば、それは伝わる。相手の言語で話せば、それは心に響く。」ということばを残しました。マンデラにとっての「相手の言語」はアフリカーンス語でしたが、本日の新入生一人ひとりにとっての「相手の言語」は、何語になるのでしょうか。個人が複数の言語能力を持ち、場面に応じてそれらを使い分ける状況に対応することが求められる21世紀を生きるみなさんは、このキャンパスで、あるいはさまざまなプログラムで訪れる世界各地で、これまで全く知らなかった文化や言語に触れることになります。このような出会いのなかで、「相手の言語」で話し、相手の心に訴える体験を重ねていってください。

私たち教職員の役目は、この大学で学ぶ学部生/大学院生が、そのような体験をできるだけ豊かに得られるように、カリキュラムや各種プログラムを整えることです。本日の聖書朗読箇所のとおり、「多く与えられた者からは多く求められ、多く任された者からは更に多く要求され」ます。大学や大学院で学ぶという大きな恵みを与えられたみなさん、その時に備えて、このICUでの一日一日を、どうぞ大切に過ごしてください。

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