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2015年 秋季入学式 日比谷潤子学長 式辞

公開日:2015年9月3日

聖書朗読:ルカによる福音書 第12章第48節b

「多く与えられた者からは多く求められ、多く任せられた者からは更に多く要求されるのである。」


新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。礼拝堂にいらっしゃるご家族の方々にも、心よりお祝いを申し上げます。

みなさんが今日入学した国際基督教大学(ICU)は、世界の平和的発展に貢献する人材を育成することを目的として、1953年に献学されました。その前年に文部科学省(当時)に提出された書類には、「学生は 人種、国籍、宗教の如何を問わず、本学建学の趣旨に共鳴して入学を希望する者の中より、厳選収容」と記されています。

「要覧」第1号には、大学の志が「本学は国際協力のもとに設立され、国際文化と理解への実験場として独自の国際社会を学内に実現し、世界共同体の可能性を立証せんとするものである。」と表明されました。以来62年間にわたり、本学はこのビジョンのもと、日本と世界を結ぶ架け橋としての役割を果たしてきました。

ICUは、世界中からやって来る学生や教員のさまざまな文化が、クロスオーバーするところです。多様な地理的、教育的背景を有する9月生のみなさんには、グローバル化する新時代の挑戦に先進的な方法で立ち向かい、学生生活を豊かにすることが期待されています。

このような場所を創造するために、大学はまた、定期的に外部から卓越した講師を招いて講演会やセミナーを企画しています。例えば3ヶ月前には、カーネギー倫理国際関係協議会とともに、グローバル倫理に関するシンポジウムを開催し、私自身も「シティズンシップと異質性」をテーマとするセッションに参加しましたが、このセッションでは、モハウ・ペコ駐日南アフリカ共和国特命全権大使が、自らの体験に基づき、示唆に富む講演をなさいました。

さて、みなさんは南アフリカときいて、何を思い浮かべますか。スポーツに関心のある人は、2010年に開催されたFIFAワールドカップでしょうか。特色ある生物種からなる生態系、あるいはダイアモンドに代表される豊富な鉱物資源という人もいるかもしれません。

私の答えは、ネルソン・マンデラ第8代大統領です。1964年には、反アパルトヘイト運動により終身刑の判決を受けましたが、1980年代半ばに国内各地で人種隔離政策への反対運動が激しさを増し、国外からも厳しい批判が続きました。当時私が学んでいた米国の大学でも、ICUのキャンパスで言えば本館前の芝生にあたるところに、抗議活動をする学生のテントがずらりと並んでいたのを、よく覚えています。27年にわたった獄中生活は1990年にようやく終わり、1994年の総選挙で大統領に就任、アパルトヘイトは撤廃されました。

ところで南アフリカは、20以上の言語が用いられる多言語社会で、現在の公用語は、英語、アフリカーンス語、ズールー語、コサ語、北ソト語、ソト語(Sotho)、スワジ語、南ンデベレ語、ツォンガ語、ツワナ語、ヴェンダ語の11言語です。英語とアフリカーンス語を除く9つは、おそらく初めて名前を聞く人も多いかと思いますが、いずれもバントゥー諸語に属しています。

2番目に挙げたアフリカーンス語は、オランダの植民地だった時代(17世紀)のオランダ語を基礎に、フランス語やドイツ語等のヨーロッパ言語、やはり旧オランダ領だったインドネシアから渡ってきたマレー人がもたらしたマレー語、それに現地の諸言語が融合してできた言語で、旧白人政権のもと、南アフリカの正式な国語となりました。「アパルトヘイト」もアフリカーンス語の単語で、「アパルト 分離、別々」+「ヘイト 状態」という意味です。1976年の6月に起きたソウェト蜂起は、このアフリカーンス語を学校で学習することを強制する法令に反対するアフリカ系学生の抗議行動に端を発したもので、全世界に衝撃を与える大暴動に発展し、その後、映画や小説の題材にもなっています。

マンデラは、白人支配の象徴、圧政者の言語とみなされていたこの言語の習得に、自らの意志で進んで取り組みました。アフリカ系住民を抑圧する人々の心に訴えたいのであれば、何よりもその人々の言葉を理解し、その言葉で話すべきだと考えたからです。収監中はアフリカーンス語で積極的に看守とコミュニケーションをとり、やがて看守たちの方から、この反アパルトヘイト運動の闘士のところに話をしにくるようになりました。

マンデラは、「相手が理解できる言語で話せば、それは伝わる。相手の言語で話せば、それは心に響く。」ということばを残しました。マンデラにとっての「相手の言語」はアフリカーンス語でしたが、本日の新入生一人ひとりにとっての「相手の言語」は、何語になるのでしょうか。個人が複数の言語能力を持ち、場面に応じてそれらを使い分ける状況に対応することが求められる21世紀を生きるみなさんは、このキャンパスで、あるいはさまざまなプログラムで訪れる世界各地で、これまで全く知らなかった文化や言語に触れることになります。

本日の聖書朗読箇所のとおり、「多く与えられた者からは多く求められ、多く任された者からは更に多く要求され」ます。大学や大学院で学ぶという大きな恵みを与えられたみなさんは、その時に備えて、このICUでの一日一日を大切に過ごし、「相手の言語」で話し、相手の心に訴える体験を重ねていってください。

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