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生涯の師 長清子先生を偲ぶ

公開日:2018年7月6日

長清子先生は、1953年のICU開校当初から1988年までの大学形成期に、学生の指導に献身され、大学のあるべき姿を体現されてこられました。先生の厳しくもあり温かくもあるご指導を受け、優れた多くの卒業生が様々な分野で活躍していることを知り、改めて驚いています。先生がまとめられた『未来をきり拓く大学―国際基督教大学五十年の理念と軌跡』には、卒業生が大学の誇りであることが込められています。

若き日、ニーバーやティリッヒに師事されていた先生は、日米開戦により交換船で帰国されましたが、戦後直ちに『思想の科学』の創立に参加され、「ひとびとの哲学」を考察する思想史家の道を歩み始められました。先生は、キリスト教と日本の伝統的文化との出会い、それを具体的な人物について内発的な思想と外来の思想(異質文化)との出会いと変容として考察していく思想史の方法、「武田思想史学」を確立されました。日本人の価値観のなかにひそみ続ける天皇制の問題も、先生が終生追求された課題であり、その著作『天皇観の相剋』は天皇制研究の基本的文献とされています。

社会的発言においても、いつも毅然として民主主義と平和主義の姿勢を貫かれました。戦後間もなく参加された「平和問題懇談会」、「絶対平和主義と現実主義」の論稿には平和への取り組みがみられます。民主主義についても、戦後与えられたものではなく、日本人の内在的に培われた民主主義の系譜があることを持論とされていました。ICUにアジア文化研究所が設立されることに先生は力を注がれましたが、それには中国・韓国のキリスト者との厳しい出会いという体験が背景にあったと思います。実践的には宋慶齢日本基金会理事長として中国の寧夏回族自治区の教育援助をされました。ネルー、魯迅夫人の許広平その他多くの人々との親交を深め、内外の人々との出会いは晩年の著『出逢い―人、国、その思想』に生き生きと触れられています。

先生を囲む私たちクラブ(リベルテ)の集まりでは、ただ飲み食いするだけではなく、先生のご提案でだれかがそれぞれのテーマを話すことが習わしになっていました。90歳になられた時から始められた思想史研究会には、卒業生10人ほどが参加し報告と議論を重ね、8年間続きました。100歳のご生涯は、人間と社会の矛盾を追及して止まない思想家のそれであり、開学以来65年間途切れることなく交わりを続けてきた私たちにとっては、文字どおり生涯の師であります。9月には感謝の気持ちをもって、偲ぶ会を開きたいと思っています。


桑ヶ谷 森男(くわがや・もりお 本学1期生、国際基督教大学高等学校元校長)

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