エコキャンパス実現に向けた自然エネルギーの利用

エコキャンパス実現に向けた自然エネルギーの利用

国際基督教大学(ICU)は、大学の取組指針を定めた「ICU環境宣言」において、次のように宣言しています。

「ICUはその環境に関する全学的立案と決定に際して、環境に対する敬意と配慮、キャンパス生態系維持への努力、そして地球市民としての責任に、その根源的な価値を認める。ICUコミュニティを構成する教員、職員および学生のすべては、自らの営みが地域的および地球的環境に影響を及ぼすものであることを深く自覚する」。

キャンパスエネルギー検討委員会での議論

今後数十年間に起こる可能性のある施設の新規建設や建て替えを想定した上でキャンパス内のゾーニングを定め、将来にわたり、教育・研究・学生生活に支障なく、施設の新規建設や建て替えが実施できるよう考慮した長期計画「キャンパス・グランド・デザイン」の検討を機に、今後の新たな60年に向けて中長期的、総合的かつ計画的な視点に立って、ICUキャンパスにおけるエネルギー方針を定めようと、2014年12月、学内に「キャンパスエネルギー検討委員会」(委員長: 岡野健教授、物理学メジャー)が設置されました。同委員会では、次の3項目につき検討されました。

①省エネルギーの促進に向けた多様なエネルギー源によるエネルギーの高効率化
②温室効果ガスの削減を含めてサステイナブルキャンパスに向けた環境対応
③大災害時にエネルギー供給が途絶える場合に備えたレジリエンス機能

委員長を務めた岡野教授によると、キャンパスエネルギー検討委員会では、次のような議論がなされました。

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岡野健教授
物理学メジャー

「ICUにとってのエコキャンパスとは何か、構成員間で合意を形成し、共通の価値観とすることが重要であるという点で一致しました。さらに、広いキャンパスに点在する様々な施設に、エネルギーをどう配給するべきか、設備コストも含め徹底的に検討しました。また、給湯器熱源装置(ボイラーなど)からキャンパスの隅々に熱水を送って各施設を暖める『セントラル・ヒーティング・システムに代わるものとして、主なエネルギーを電気とし、非常時にはガスを利用、さらに廃熱を無駄なく利用して総合エネルギー効率を高めるコジェネレーションの導入を決めました。

一方、教育への活用に関しては、『ICUの目指すエコキャンパスでは、エコ技術やそれにより得られたデータを教育に活かすことを指針とする』ことで、合意しました。例えば、環境研究メジャーの学生が、エネルギー消費データをもとに卒業研究を行ったり、経営学メジャーの学生が、施設内で環境ビジネスのビジネスプランを試行したりするのも一案でしょう。学生も教員も、エコキャンパスから多くを学べる仕組みを整えたいと考えています」。

同委員会がまとめた答申は、キャンパス・グランド・デザインの基本方針として採用されました。そして今後も、社会の変容と技術の発展に柔軟に対応するため、今後も、この基本方針は定期的に見直されます。

新しい学生寮に導入された技術と取組み

キャンパス・グランド・デザインの最初の計画として、2017年4月に開寮した新しい学生寮2棟にも、もちろん環境に配慮した技術と取組みが採用されました。主なものを紹介しましょう。

① 階段上部に換気窓を設置

新しい学生寮2棟の中央部に計画している2つの階段室の最上部に換気窓を設け、年間通して上空20~25メートルの空を平均秒速3メートルで吹く自然風が、内部に上昇してたまった空気を先の換気窓から上空へ自然誘引し、各階に自然通風を促す仕組みを採用しました。また、季節により、換気口を閉じて機械換気を利用し、コントロールします。快適さと省エネを両立させて、自然を感じるさわやかな空気を取り入れる工夫です。

② 電力の見える化で省エネ促進、教材提供

各階で消費電力を計測、管理室のパソコンで、全フロアーの電力消費状況を見ることができます。寮生は、自分たちの生活がどれだけのエネルギーを消費するのか、また、それはどの程度コントロールできるのか、実感しながら生活します。さらに、過去のデータをダウンロードすることもできるため、これらのデータを、教育・研究に活用することも可能です。

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③ 各階ごとに小分けした空調運転

寮室の空調は、各階で電源を入/切できます。その階の状況に合わせ、無駄なく最適な空調で生活できます。

④ ペアガラスの断熱窓

すべての寮室の窓は、ペアガラス(二重ガラス)を採用します。ガラスとガラスの間の空気層をどの程度とるかにより、ペアガラスの断熱性能基準は3段階に分かれますが、新しい学生寮の寮室の窓には、北海道など寒冷地で使用されるものの次のランク、第二水準のものが使われます。

⑤ 太陽光パネルで常備灯に電力供給

階段の常備灯は、太陽光パネルによる発電です。コストに鑑み、すべての電気を太陽光発電で補うことは不適ですが、停電時に利用できる蓄電池を併設し、緊急時に備えます。

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⑥ 全館にLED照明

寿命が長いLED照明を利用します。2棟の学生寮のLED照明数は、計1000個以上。LED導入により、電球の交換コストを抑えます。

⑦ 電気とガスのエネルギーバランス

1階の共用部はガス、2階以上は電気と、電気とガスを併用することで双方のメリットを最大限生かし、ライフサイクルコストの低減を図ります。

他の施設でも将来的に導入が見込まれるエコ技術

現在、一般に建設される多くの施設において、自然エネルギーが積極的に利用されています。キャンパス・グランド・デザインに基づいて、学内に建設される施設においても、自然エネルギーを利用したエコ技術を積極的に取り入れる方針です。その主な手法は、「ナイトパージ」「クールピット」「人のいる場所だけのスポット空調」「大空間では床付近のみを空調」「エネルギーを使わず除湿するデシカント空調」「コジェネレーション」です。

ナイトパージ

気温の下がる夜間に外気を取り入れ、夏、春、秋は夜間建物を冷やすことで、次の日の午前中は空調がなくても過ごせるような環境を創ります。

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クールピット

夜間に外気を地下ピット経由で取り入れ、夏でも低い地中温度を活用します。さらに突風の侵入を防ぎ、ほこりを落とし、防虫網で虫の侵入を防ぎ、柵で人の侵入も防ぎます。

人のいる場所だけのスポット空調

ナイトパージにより、ある程度の快適環境を創った上で、椅子やテーブルの周囲など、人がいる場所だけに機械の空調をプラスして快適性を向上します。「人が快適と感じる環境を作るため、自然エネルギーを活用し、機械による補助を加える」という考え方です。

大空間では床付近のみを空調

同様に、空調費がかさむ大空間は、人が活動する床面付近を重点的に暖めたり冷やしたりして、空調エネルギーを大幅に削減します。

エネルギーを使わず除湿するデシカント空調

デシカント空調システムとは、温度と湿度を別々に制御するものです。通常の空調方式に比べ、省エネでより快適になります。

コージェネレーション

ガスコージェネレーションシステムでは、都市ガスを使って発電、同時に排出される熱を暖冷房やプール加温に利用します。

キャンパスの広さと深い緑、吹き渡る風とクリーンな空気――これらICUのキャンパスの利点を、最適コストで最大限に活用する最新技術や工夫、そして、その技術や工夫の効果を教育研究に活かす仕組みを整え、キャンパスをよりサステナブルに発展させる計画、それがキャンパス・グランド・デザインなのです。

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