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2020年 秋季新入生の皆さまへ
岩切 正一郎 学長 式辞

公開日:2020年9月1日

 

教養学部ならびに大学院博士前期課程・後期課程新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。ご家族、ご親戚、ご友人の皆様にも心よりお祝い申し上げます。

国際基督教大学は、その名が示す通り、3つのミッションを持っています。学問、キリスト教主義、国際性への使命です。

1953年に献学されて以来、ICUは、キリスト教精神に基づいた自由にして敬虔な学風を堅持し、国際的社会人としての教養をもって神と人とに奉仕する人々を育ててきました。ICUでは、学生、同窓生、教員、職員の一人ひとりが、人類へ、そして世界の恒久平和へ寄与する人であるよう期待されています。

献学当初から、ICUは、教育システムとしてリベラルアーツを選択しています。それは、リベラルアーツ教育が、物事を一般的、歴史的、グローバルなコンテクストの中で理解する能力を育みつつ、それと同時に、個人、社会、自然を特殊な方法で理解する能力を育むことを可能にするからです。

一般と特殊。これは矛盾しているように見えるかも知れません。そして事実、皆さんがICUでの学びを始めると、多くの矛盾に行き当たります。
人はあなたにこう言います。何かを論じるときに最も重要なのはエヴィデンスだ、と。同時に人はあなたにこう言います、「想像力を持て!」と。
皆さんもすでにご存知のとおり、キリスト教を含む信仰は、常に理性的な説明を受け付けるものではありません。ところが、あなたの信じているものが何であろうと、ICUの教育では、常に、理性に基づいた批判的思考を実践するよう求められます。

そのような矛盾は自分の研究や人生には必要ない、と考え、人間存在の複雑さを単純化し、自分の関心をただ特殊な専門的なフィールドにのみ向けようとし始めるとき、おそらくそのようなときに、ひとつの危機が始まることになります。例えば、第二次世界大戦以前、日本の高等教育は叡智ある広い視野を涵養することなく狭隘な専門性を深めることに重きを置き過ぎ、結果は悲惨なものとなりました。ICUがリベラルアーツの大学として設立されたのはまさにこうした悲惨を繰り返さないためになのです。
皆さんは自分のなかに様々な矛盾を統合できるタフな人であって欲しい、私はそう望みます。エヴィデンスに基づいた批判的思考、想像力、信仰、理性、感性を通じて、自分自身を開発し、現代のグローバルな問題への解決策を見出して欲しいと思います。現代のグローバルな問題は複雑で多面的なので、その解決のためには、文化や専門を横断するアプローチが要請されるのです。

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現在、私たちは新型コロナウイルスの危機に直面しています。そしてある意味で考えることを強いられています。フランスの小説家アルベール・カミュは、その戯曲『カリギュラ』のなかで登場人物のひとりにこう言わせています。「〔暴君の〕カリギュラは考えることを強要する。安全ではない、ということが人を考えさせるんだ。」
今日COVID-19は社会に不安をもたらしています。けれども、コロナ・パンデミックの前から、私たちの世界には数多くの不安がひしめいていました。貧困、汚染、不平等、搾取、気候変動、環境破壊... 国連事務総長のグテレス氏が指摘しているように、新型コロナウイルス以前の、ノーマルと思われていた生活の背後には、グローバルな不安定要因となる人間行動の数多くの異常さがあったのです。その意味では、私たちは絶えず考えることを強いられていたとも言えるでしょう。そしてまた、このような不安な時代状況のなかにあっても、考えることを好まず、自分の幻想を単に信じることで満足しようとしている人々もいます。
私は、皆さんが、異なる科学的・学問的アプローチ、すなわち、人文科学、社会科学、自然科学的なアプローチを統合して、良い思考者になって欲しいと思います。そして皆さんが、自分自身で、知的で感性的な構造を創って欲しいと願っています。みずからのうちに創ったその構造は、正しく行動し、他者と良くコミュニケートし、多様性に開かれ、文明を自然との調和へと導く新しい規範を創造し、そして、皆さんが困難に直面したときに良い解決策を発見する、そのための助けとなります。ICUの教職員一同、皆さんのそうした努力への支援を惜しみません。

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9月4日から秋学期が始まります。新型コロナウイルスのために、皆さんの中の約35名は海外からオンラインでの履修になります。私たちがOYR(One Year Regular students)と呼んでいる交換留学生も通常より少ない人数です。多くの国際・国内学生が秋・冬学期の留学の機会を失ったことは残念でなりません。
こうした困難な状況の中でも、ICUはこれまで同様、対話と批判的思考を通じて皆さんの知的な興味を刺激するコースをゆるぎなく提供していきます。皆さんの活動が生産的・創造的であり、皆さんの経験が多様性において豊かであることを願っています。
多様性に関して、モンテーニュがその著書『エッセー』の第二巻三十七章に書いている一節を引用しようと思います。

私は自分と違う意見を嫌ったりはしない。〔略〕私たちの意見や意図が一致するのはごくまれなことだ、と私は思っている。同じ二本の毛や同じ二つの穀粒がないように、世界に、二つの全く同じ意見があったことはない。人間の意見のもっとも普遍的な性質、それは多様性である。

ただ従うことを要求する同質的な一様性や、同調圧力に対抗して、ICUが皆さんを誘(いざな)うのは、活力に満ちた者であること、多様性へ、それも意見においてだけではなく、文化と自然におけるより広い地平の中での多様性へと開かれた人であることです。

皆さんがICUでの生活を享受されますように!

学長 岩切正一郎

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