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2023年春季入学式を挙行
公開日:2023年4月1日

4月1日(土)、満開の桜のもと、2023年春季入学式を大学礼拝堂で執り行ない、国内外からの新たな学部生・大学院生、本学と交換留学協定を締結している大学からの留学生、合計約656人を迎えました。
式典では、1953年の献学以来、70年以上にわたり引き継がれている伝統に則り、新入生一人ひとりの名前が紹介されたほか、世界人権宣言の原則にたち大学生活を送る旨を記した誓約書に入学生全員が署名を行いました。また、学生宣誓への深い理解とともに大学生活をスタートさせてほしいという願いから、ICU生が英語翻訳を手掛けた『ビジュアル版世界人権宣言』が新入生全員へ配布されました。
そして、岩切正一郎学長が、新たに集った新入生へ激励の言葉を贈りました。
岩切正一郎学長 式辞(全文)
聖書朗読:マタイによる福音書 第13章3-8節
教養学部ならびに大学院博士前期課程・後期課程新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、同時中継を通じてご参加くださっているご家族、ご親戚、ご友人のみなさまにも、心よりお祝い申し上げます。
今日、新入生となった皆さんの人生に、自分の力ではどうしようもない理不尽な災害や事故や戦争があったこと、あるいは今もあることを、私たちは知っています。人は、幸せな日常を願い、思いを伝えあい、世界をよりよいものへ変えようとしているはずなのに、どうしてそうならないのだろう。きっと皆さんは、そのような疑問を胸に抱きながら、未来をみつめていると思います。
気候変動、エネルギー問題、自然破壊、格差、差別、暴力...いろいろな問題がその未来の上に影を落としています。そのいっぽうで、分子生物学や生化学あるいは半導体、量子コンピューターなど、人間の肉眼では見えないメカニズムやシステムを解明し利用しあるいは製造するアルゴリズムの世界が広がっています。皆さんがこれから生きてゆく時代は、ヒト新世とも呼ばれる地質年代における人間活動のあり方そのものを問い直しながら、未知のものを新しい現実へと変換する知的な冒険を行なってゆく時代です。
今、世界の状況を見渡せば、地球の環境も人間社会もますます悪化しているように見えます。とはいえ、そのために悲観的になり、あらゆることをただ黒く塗りつぶすだけなら、それはほとんど傍観者でいるのと同じことです。状況をありのままに見つめ、そこから逃げることなく、また無関心でいることなく、私たちはよりよい世界を作るためのヴィジョンを持たなくてはなりません。ひとつの時代には、とりわけその時代の若者によって特徴づけられる個性があります。時代の中に息づいている美しいものがあります。その個性、その美しいものがヴィジョンを生み出します。それはまだ人と共有できるような形にはなっていないかも知れません。それに形を与える能力を、ぜひICUの学びを通して身につけ、深めていってくださればと思います。
その能力は、短絡的な眼ざしでみると、何の役に立つのか良く分からないもののように見えることがあります。リベラルアーツで大切にされるのは長い時間の中で真価を発揮し続ける能力です。長い目で見れば役に立つ能力なのです。人間と社会と自然をどのように理解し、何を大切な価値として設定し、どのような課題を何へ向かって解決してゆくのか。そのような問いを立て、答えを出し、課題を解決してゆく能力です。
この4月から、本学では、新しく建設されたトロイヤー記念アーツ・サイエンス館の使用が始まります。この建物は、皆さんが、対話を通じて、自分の中に、また社会の中に、新しい物の見方やシステムや感性を創造してゆく、そのリベラルアーツの学びを象徴する空間です。キャンパスの日常のなかにある対話と多様性を通じて、また、自分と他者をしっかり理解するための批判的思考を通じて、皆さん一人ひとりが、確かな人格を持ち、平和の構築に寄与できる人となるよう、願っています。
私たちはグローバリゼーションを通じて、ユニヴァーサルな価値観を共有しながら、それとは必ずしも一致しない、固有の文化ともつながっています。世界は多様性に満ちています。その世界の豊かさを、ぜひ学生時代に経験して欲しいと思います。本学には、リアルな世界で多様な人々との出会いを可能にする留学やサービスラーニングが用意されています。そのような機会をぜひ有効に活用してください。
対話や多様性や出会いを通じて人が見出すのは、信頼と希望です。その対極には疑心暗鬼と絶望があります。ICUがキリスト教を基盤として教育・研究を行っているのは、信頼と希望の場所を作っている、ということに他なりません。そのキャンパスで、知的エネルギーと心のエネルギーにあふれた日々を重ねてください。
今日、皆さんのお手元には、一冊の本が置かれています。『日英仏3言語 ビジュアル版世界人権宣言』という本です。これは、コロナ禍のなかで、2年前、ICUの学生たちが、みなさんのために作った本です。
もとはフランス語で書かれ、日本語の翻訳も出ていました。ICUは日英バイリンガルの大学なので、英語への翻訳を自分たちで行い、人間の権利についての理解を助ける本を、4月入学の学生にも9月入学の学生にも読める形にしたのです。在学生からみなさんへの贈り物です。どうぞ大切にして、そして、平和や人権について考えるときの参考にしてください。
学びや研究や人間関係を通じて、皆さんは一人ひとり変わっていきます。ICUでの学びを通じて、皆さんが、内面的な豊かさをさらに豊かにし、世界といっそう深くつながっている人へと変容することを期待して、私からのお祝いの言葉といたします。