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2021年夏季卒業式を挙行

公開日:2021年6月30日

6月30日(水)、大学礼拝堂において2021年夏季卒業式を挙行し、学部生132人、大学院生50人あわせて182人が本学を卒業しました。

式典はコロナウィルス感染予防として会場内が密になるのを避けるため、卒業生・修了生のみが参列する中、個を尊重する本学の特徴をあらわす献学時からの伝統に則り、卒業生・修了生一人一人の名前が紹介されたほか、讃美歌斉唱、聖書朗読、岩切学長式辞などが行われました。

また、2021年4月1日付で名誉教授となったマーハ, ジョン C.教授に名誉教授の称号書が授与されました。

 

 

岩切正一郎学長 式辞(全文)
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聖書朗読:マルコによる福音書 第1章9-15節 

 

教養学部アーツ・サイエンス学科を修了し、学士の学位を取得されたみなさん、また、大学院アーツ・サイエンス研究科博士前期課程、後期課程を修了し、それぞれ、修士、博士の学位を取得されたみなさん、ご卒業おめでとうございます。ご家族、ご親族、ご友人の方々にも心よりお喜び申し上げます。

もう遠い昔のような気がするかも知れませんが、みなさんの多くが入学した4年前、2017年に、アメリカ合衆国ではドナルド・トランプ氏が大統領に就任し、気候変動抑制のための国際的な協約であるパリ協定から自分の国を離脱させました。

4年後の今年、2021年、新大統領に就任したジョー・バイデン氏の大統領令によって合衆国は協定に復帰しました。

エコロジストでアクティヴィストのグレタ・トゥーンベリ氏が気候変動への対策を訴えて学校ストライキとスピーチを始めたのは2018年、彼女が15才の時です。最初はドン・キホーテのような無謀な行動に見えたかもしれません。けれども彼女の行動と言葉が、世界の政策決定者たちに強い影響を与えたことを、私たちは知っています。

2019年に、国連事務総長のアントニオ・グテレス氏は、気候と持続的な開発に関するハイレベル会合の開会挨拶で次のように述べました。「 気候変動は今も我々全員に対して生じている。.〔...〕どの国もどのコミュニティもそれを免れることはできない。そして、常にそうなのだが、貧しく弱い者が最初に苦しみ、最悪の打撃を受ける。」 
 
つまり、グローバルな危機に直面したときにふたつの態度が出現します:単一行動主義か、協同的か。ICUが学生と教職員に求める、global citizenであること、それは、この気候変動の問題に端的にあらわれているように、地球規模の問題に対して、己の利益だけを追求するのではなく、利害を調節しながらともに協力して対処するという考え方が、自分のなかにセットされていることを意味しています。そして、経済的、社会的、そのほか様々な格差のグローバルな構造に敏感であり、その解消のための意思表示をし、行動することを意味しています。その意味で、ICUはみなさんに、common goodの感覚を持つ人であって欲しいと願っています。

ところで、グテレス氏は、気候変動のことをグローバルな緊急事態、と呼んでいるのですが、去年から私たちは別の緊急事態に見舞われています。新型コロナウイルスは、私たちの生活スタイルを一変させ、教育のあり方も変えてしまいました。そのなかにあって、困難を乗り越え、研究を完遂したみなさんの意志と努力は素晴らしいものです。ここに敬意を表し、祝福したく思います。

みなさんは、リベラルアーツの学びを通じて、独善的な考えや、偏見や、差別や、思い込みに対し、それを自分の中で増殖させない免疫を獲得したことと思います。それは、たぶん一生のあいだ効果が持続する精神的な免疫です。いっぽう、生化学的なテクノロジーの発展のお蔭で、今、私たちはコロナウイルスという物質的な異物に対してワクチンによる免疫を獲得しつつあります。

免疫、それは、私たちの生きた体に侵入し、その中で増殖する非自己としての異物を排除する働きです。たとえ私たちにとっては異物であっても、もしそれがただ入ってそのまま出て行くだけなら、何の問題もありません。

東京オリンピック・パラリンピックがそのケースに当たるでしょう。それは、「おもてなし」という言葉がいみじくも表していたように、ある意味では、過ぎゆく客を短い間迎えて楽しむ大がかりで賑やかな祝祭です。人は、旅人には寛容です。訪れ、滞在し、珍しい話をして、去って行く。その人がお金をたくさん使い経済をうるおしてくれるなら、なおさら大事にされるでしょう。

けれども、もしその人が、帰るところがないままやってきて、日本に救いを求め、住み着こうとする、貧しく、立場の弱い人だったら、どうなるでしょうか。たとえば難民申請者のような。残念ながら、日本は、そのような人を前にすると、急に冷たく、よそよそしくなり、ときには非人道的になります。

いわば社会の免疫システムとでも言えるもの、それは、どのような文化のなかにも組み込まれています。異なった文化圏の人を、自分たちの共同体へ包摂するのか、あるいはそこから排除するのか、それを決定する共同体の意思決定のシステムが、日本の場合は非常に厳しい排他的な基準を設けて作動し始めます。

もちろんこれは日本だけの問題ではありません。ある偏った意識で自分たちのアイデンティティやイメージを守ろうとすれば、社会にはたちまち分断が生まれ、柔軟さがなくなり、他者を、あえて言えば異物を、排除するための壁が張り巡らされ、暴力が噴き出します。

コロナウイルスのような異物は、私たちの命を守るために、体の中から排除されなくてはなりません。けれども、或るひとりの人間が異なった文化圏からやってきて、その人にとっては新しい社会的・文化的な慣習の中に身を置こうとするとき、その人は排除すべき異物ではなく、対話すべき相手であり、多様性をうみだす異質な存在、私を他者との関係のなかに置きなおし自己のあり方を再確認させる契機となる、そのような存在です。

みなさんは、リベラルアーツの学びを通じて、対話力、多様性を尊重する精神、個別のものを普遍的な秩序のなかへ包摂していく力を獲得し、自分の中に構造化したことと思います。その全てが、みなさんのこれからの人生に良い秩序を生み出す助けとなることを私は願っています。そして、たとえ困難が待ち受けていても、人々が深い喜びをもって住むことのできる場所を作っていって欲しいと思います。それはおそらく、人間が作りだす人工のものと自然とが調和した環境であるはずです。

みなさんの門出にあたり、ひとりの小説家の文章を引用して餞の言葉とします。フランスの作家マルセル・プルーストが20世紀の初めに書いている文章です。小説の語り手であり主人公である「私」は、当時まだ珍しかった飛行機が頭上を飛んでいくのを見ながらこう思います。

太陽にきらきら輝いている鋼鉄の二枚の大きな翼のあいだに、その翼に運ばれてゆく一つの存在を認めた。〔...〕飛行士はどちらの方向へ進むべきか迷っているように見えた。彼の前方には〔...〕空間と人生のあらゆる道が開かれているように感じられた。飛行士はさらに先へ進み、しばし海上を飛んだかと思うと、ついでとつぜん腹を決め、〔...〕重力の反対方向へと何かの牽引力に従うような様子で、空に向かってまっすぐに上っていった。

(『失われた時を求めて』鈴木道彦訳)

みなさんの人生が神さまに導かれ、祝福に満たされていますように。
ご卒業おめでとうございます。

名誉教授称号書 授与

マーハ, ジョン C.教授は、1988年に客員助教授として着任し、教授、特任教授として2021年3月に退職するまで、長きにわたって本学の研究教育の発展に尽力しました。在任中は、教育研究所所長をはじめ、大学院教育学専攻科長、国際関係学科長、公共政策・社会研究専攻主任、教授会評議会委員および同評議会議長等の役職を務めました。

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