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2022年春季卒業式を挙行

公開日:2022年3月25日

3月25日(金)、大学礼拝堂において2022年春季卒業式を挙行し、学部生519人、大学院生39人あわせて558人が本学を卒業しました。

式典は、コロナウィルス感染予防として会場内が密になるのを避けるため、午前と午後の2部制とし、卒業生・修了生のみが参列する中で行いました。

式では、個を尊重する本学の特徴をあらわす献学時からの伝統に則り、卒業生・修了生一人一人の名前が紹介されたほか、讃美歌斉唱、聖書朗読、式辞などが行われました。

式後には、コロナ禍で対面での交流が制限される中、友人との再会を楽しむ姿などが、満開の桜に彩られたキャンパス内のさまざまな場で見られました。

 

岩切正一郎学長 式辞(全文)

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聖書朗読:マルコによる福音書 第4 章 1-8 節 

教養学部アーツ・サイエンス学科を修了し、学士の学位を取得されたみなさん、また、大学院アーツ・サイエンス研究科博士前期課程、後期課程を修了し、それぞれ、修士、博士の学位を取得されたみなさん、ご卒業おめでとうございます。オンラインでご参加くださっているご家族、ご親族、ご友人の方々にも心よりお喜び申し上げます。

2年前から、新型コロナウイルスの感染を防ぐために、大学における教育と研究は大きく姿を変えました。それまでの習慣を離れ、新しい環境に適応しなくてはならなかったみなさん一人ひとり、苦労が多かったと思います。その苦しさに負けず、勉学を続け、論文の執筆に取り組み、今日この日を迎えた、みなさんの努力と逞しさに、深く敬意を表します。

私たちが経験したこと、それは、ある時突然出現する異常なものによって、見慣れた日常が見慣れない別の日常へ変わってしまうということでした。そのようなことは、個人のレベルでは常に起こっています。それが集団のレベルで起こるとき、試されるのは共同体のあり方、そこに顕われるのは、共同体が持っている特質です。異常なものとは、自然災害、原発事故、テロリズム、ウイルス、戦争... それらは、一見突発的ではあるけれど、実際は、普段からわれわれの眼には見えないところで破壊的な力を保ち、何かをきっかけに、突然、眼に見える形となって日常へ侵入してくるだけなのかもしれません。

これから先、人の世界に、あるいは、自然環境のなかに、何が現れるのか、起こってみなければ分からないところがあります。なるべくなら、今われわれの意識がとらえきれていないものを、科学の力を借りて、認識の明確な対象にしておくこと、予測可能な対象へ変換しておくことが望ましいには違いありません。けれども、手持ちの素材を使って組み立てた予想とは違ったところに、新しいもの、思いがけないものが、ある日、存在しています。そのとき大切なのは、その新しい事態に対して、自分の中に在る普遍的なものを対置させる心構えだと、私は思います。今後、社会構造がどのように変化し、科学技術の発展がどのような形で起ころうと、みなさんがICUのリベラルアーツ教育で身につけたことは、ゆるぎなく、みなさんの人生を支えるでしょう。別に、大げさな身振りを求められているわけではありません。好奇心の持ち方、人間への関心、対話力、人を隣人として愛すること、全体を見ながら個々の問題に取り組むこと、真実へ批判的にアプローチすること。そのような心と知性のあり方は、今後みなさんが何かを選択し、決断しなくてはならないときに、確かな支えとなってくれます。

リベラルアーツの学びの中にあるのは、人が人として生きるために大切なものとは何か、真理はどのように共有されるのか、人間活動のなかで何を最も中心的な価値とすべきなのか、それを自分のなかではっきり意識するようになる、知性と感性の深い経験です。それはみなさんの中から消えることはないでしょう。

さきほどの、聖書朗読にあった比喩にならって言えば、みなさん一人ひとりは、リベラルアーツという土に蒔かれて、豊かな実りを得る人へ育ちました。そして同時に、リベラルアーツという種は、みなさんのなかに蒔かれたからこそ、何倍もの実りをもたらすのです。

ICUに入学する前、みなさんは、自分の学生生活をどのように想像していたでしょうか。

私が時々ページをめくる小説のなかに、こんな箇所があります。主人公は、海岸の保養地へ行く前に本を読んだり人から話を聞いたりして、想像をふくらませています。実際にそこへ行ってみると、夢みていたものはありませんでした。語り手はこう言っています。

なるほど、あのように長いこと行きたいと思っていたこのバルベックでは、夢みたようなペルシャふうの教会も、永遠に晴れることのない霧も見出せなかった。[略]汽車にしても、私の思い描いていたようなものとは違っていた。しかし、想像力が期待させるもの、私たちがさんざん苦労しても発見できないもののかわりに、人生は想像もしなかったものを与えてくれる。

プルースト、『逃げ去る女』(鈴木道彦訳)

もし想像力や期待があらかじめなければ、この人物は、その場所へは行きませんでした。だから、想像力が否定されたわけではありません。けれども、世界の多くの偉大な作品も同じことを教えているように、生きるというのは、いったんその幻想がくずれることを引き受け、そのなかから新しい真実を発見する営みなのです。

ICUでの生活は、みなさんに何を与えたでしょうか。嬉しいこと、悲しいこと、戸惑わせること... それら全てが、最後には、みなさんの人生を豊かにするかえがえのない経験となっていることを願っています。

皆さん、ご卒業おめでとう。祝福された人生を、平和を築く人として歩んでください。