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2022年夏季卒業式を挙行
公開日:2022年6月29日
6月29日(水)、大学礼拝堂において2022年夏季卒業式を挙行し、学部生129人、大学院生26人あわせて155人が本学を卒業しました。
式典はコロナウィルス感染予防として会場内が密になるのを避けるため、卒業生・修了生のみが参列する中、個を尊重する本学の特徴をあらわす献学時からの伝統に則り、卒業生・修了生一人一人の名前が紹介されたほか、聖書朗読、岩切学長式辞、グリークラブの合唱などが行われました。
また、2022年4月1日付で名誉教授となった、森本あんり教授に名誉教授の称号が贈呈されました。
岩切正一郎学長 式辞(全文)
聖書朗読:コリント人への第一の手紙 第13 章 1-3 節
教養学部アーツサイエンス学科を修了し、学士の学位を取得された皆様、また、大学院アーツサイエンス研究科博士前期課程、後期課程を修了し、それぞれ、修士、博士の学位を取得された皆様、ご卒業おめでとうございます。インターネット中継を通じて、キャンパス内の別会場やご自宅等でご参加くださっているご家族、ご親族、ご友人の方々にも心よりお喜び申し上げます。
卒業生の皆さんは、2020年からの約2年間、新型コロナウイルス感染防止の体制のもと、大きく姿を変えた高等教育の、新しい環境に適応しなくてはなりませんでした。一人ひとり、苦労が多かったことと思います。その困難に負けず、勉学や研究の志を保ち、論文執筆に取り組み、晴れて今日この日を迎えた、皆さんの努力と逞しさに、深く敬意を表します。今年の4月からは、人の声がキャンパスにあふれるICUらしい雰囲気が戻ってきました。そのなかで、皆さんの卒業をお祝いすることができ、大変嬉しく思っています。
今日を境に、皆さんは、これまでの勉学に区切りをつけ、就職や進学など、人生を次のステージへ進めることになります。ほとんどの方が、自分の物質的な生活を自分で支える現実世界へ入って行きます。その皆さんへ、私は、19世紀のフランスの詩人、ボードレールの言葉を贈りたいと思います。
「健康な人は誰でも2日間は食べずにすませられるが、詩なしには、決してそうはいかない」(『若き文学者への助言』)
この文章は、もちろん、聖書の一節から来ています。
イエスが四十日四十夜断食したあと、空腹を覚えたとき、悪魔が近づいて「汝が神の子なら、この石がパンになるように命じてはどうだ」と誘惑しました。そのときの答えが「人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出るひとつひとつの言葉による」と書いてある、というものでした。(「マタイによる福音書」 4:4)
四十日四十夜と二日とでは、空腹の度合いもかなり違っているでしょう。そこは問わないでおきます。詩がなければ二日と生きてはいられない、それは本当でしょうか。そこまで詩歌が好きでたまらない、という人が、今の世の中にそれほど多いとは思えません。けれども、ボードレールが「詩」という言葉で表しているものを、「想像力で作られた世界」という意味に取ってみてください。
ボードレールが主張しているのは、人間は物質的な満足を一時的に奪われても我慢できるけれど、想像力によって作られた世界に生きることを奪われたり禁止されたりしては、人間は生きてはいられない、ということなのです。
この考えをどのように受け止め、どう評価するのか、それは皆さんの自由です。私自身は、皆さんが、ICUでの経験を通じて、現実世界の中に、もう一つの現実世界、物質ではなくイメージや思い出や精神的なエレメントでできている世界を、自分の中にしっかり持ったはずだ、と思っています。これから色々な人と対話を重ね、人生を作っていく皆さん、どうか、自分の中の、そして、他の人の中の、この、心の世界を大切にしてください。人や物の関係を新しく作り直し、存在の持つ意味、生きることの意味に対する理解を深めていって欲しいと思います。
そしてその時、今日の聖書朗読個所に書かれていたように、自分の考えや議論や行動には「愛」があるのかどうか、自分自身に問いかけてみてください。愛があるとき、その愛は、どのような性質の愛なのか、そのこともときどきは自問してみてください、本人にしてみれば愛であっても、その名のもとに正当化されているべつの欲望がそこにあることもしばしばあります。
今、世界はとても混迷しているように見えます。歴史をたどれば、人の世は、いつもそうでした。その中にあって、光を灯す人、人の心に生きるエネルギーを与える人は、いつもいました。これから、皆さん一人ひとりが生活するそれぞれの環境のなかで、ICUの卒業生として、人が人らしく生きることのできる場所を作っていってください。
皆さんに、良き人生がありますよう、お祈りします。
名誉教授称号書 授与
森本あんり教授は、1997年に準教授として着任し、2001年に教授に昇任しました。在任中は、学務副学長を務められたほか、哲学・宗教学デパートメント長、湯浅八郎記念館長、キリスト教と文化研究所長、宗務部長などを歴任され、ICU創立以来のキリスト教に基づいた理念の推進に常に尽力しました。