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2023年春季卒業式を挙行

公開日:2023年3月24日

3月24日(金)、大学礼拝堂において2023年春季卒業式を挙行し、学部生511人、大学院生43人あわせて554人が本学を卒業しました。

式では、個を尊重する本学の特徴をあらわす献学時からの伝統に則り、卒業生・修了生一人一人の名前が紹介されたほか、讃美歌斉唱、聖書朗読、式辞などが行われました。

式後には、友人との会話を楽しむ姿などが、満開の桜に彩られたキャンパス内のさまざまな場で見られました。

 

岩切正一郎学長 式辞(全文)

聖書朗読:マタイによる福音書 第28章 16-20節

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教養学部アーツサイエンス学科を修了し、学士の学位を取得された皆さん、また、大学院アーツサイエンス研究科博士前期課程、後期課程を修了し、それぞれ、修士、博士の学位を取得された皆さん、ご卒業おめでとうございます。ご家族、ご親族、ご友人の方々にも心よりお喜び申し上げます。

3年前に新型コロナウイルスのパンデミックが始まった時、行動制限も開始され、本学でも卒業式が中止になりました。それから3年が過ぎ、こうして、チャペルで一堂に会して卒業をお祝いできることを、とても嬉しく思います。

コロナでいろいろと制約を受けていたにもかかわらず、皆さんは対話を続け、自分たちの生きている時間を豊かにしようと工夫し、励まし合ってきました。苦しいことや不安なことはたくさんあったと思います。それでも、そのような経験を通じて、人はいかなるときにも互いにつながるために声を掛け合うという思いを確かなものにしたのではないでしょうか。その経験をどうかこれからも人生のなかで活かして欲しいと思います。

 

この3年間、コロナへの対策を通じて、社会のあり方は大きく変わりました。とくに、「人がそこにいる」、presentであるということへの意義づけが、大きく変わりました。

大学の授業では、同じ教室にいなくても、パソコンの画面に映れば、出席、presentになる、ということが普通になったのですが、それまでは、presentであるということは、窓のむこうから聞こえるシジュウカラやカラスの声、あるいはその場所にある光や温度を共有しているということでもありました。

それが、ある一定の時間、画面の中に映し出されていれば、互いに離れていても、そこに出席している、ともに存在している、presentであるということを表す形になりました。

私たちは、気づいてしまったのです。それでも教育は可能なのだと。けれども同時に、そこには何かが欠けているような気がすると。

 

去年の4月、学生主催で、Rethink ICUという企画が立ち上がり、学生だけではなく、教職員や理事にも声をかけ、もう一度、人と人とのつながり方について考えようというイベントが開催されました。そこでは何か特別に、学問的な情報や知識がやりとりされた訳ではありません。そこにあったのは、リアルなプレゼンスと言葉のやり取りでした。それはネット配信もされたので、それを視聴している人は相変わらずリモート参加ではあったのですが、それでも、互いに触れ合える距離にいて話をする場所が戻ってきた、というメッセージが大切だったのです。

対面は苦手で、オンラインの方がいい、ヴァーチャルな空間で人と会っている方が性に合っている、という人は確かにいます。対面の人付き合いというのは、ときにはひどくめんどくさいものです。そのめんどうなことを、Rethink ICUで皆さんがやってくれたということに私は嬉しさを感じました。最近、ある週刊誌に、ICUはコスパの悪い大学だ、という記事が載りました。よく読めば、むしろ褒めてある記事なのですが、教育にせよ、あるいはたとえば恋愛にしても、コスパを価値基準にしてしまう時代に、めんどうなことを楽しむ、という精神がちゃんと息づいていたのだなあ、と嬉しくなったのです。

 

哲学者のジャック・デリダは、ロゴスには野性的なところがある、と言っています。その野性を、人間は真理の秩序によって支配し手なずけたのだ、と。その野性的な性質のことを彼は「両義的な動物性」とも言っています。

めんどくさいこと、一見合理的ではないこと、それは、この「両義的な動物性」につながっているような気が私にはします。合理性や効率性だけを求める生き方では失ってしまうものを、豊かな価値へつくりかえ、世界をもう少し味わい深いものにする精神。社会は大学に、予測不可能な出来事に柔軟に対応できる能力を学生に身につけさせるように、と求めています。その能力を身につけるには、何が必要なのでしょうか。それは、粗削りに見えるかも知れない自由な精神、ロゴスに宿っている力とエネルギーです。そのエネルギーは、対話や愛のなかから生まれてきます。対話を最も大切にした人物のひとりはソクラテスです。ソクラテス的な言葉の中には、デリダによると、「生きたロゴスのもつ魅了する力」があります。人は対話を通じて、理性の言葉に耳を傾けながら、同時に、声の中に響く、何か不透明なもの、魔法にも似た、変容する力にも触れているのではないでしょうか。私たちの中にあるその飼い慣らされていない部分が私たちを硬直した物の見方から救い出してくれます。

皆さんはそれを、ICUでの学びを通じて知っていると思います。

 

世界はこれからも変化を続け、さまざまな課題が私たちの前に現れてくるでしょう。それを解決しようとするとき、私たち一人ひとりの心の中に、美しいものが宿っていればと思います。心の中に美が宿っているとき、人は強くあることができます。そのようにして、皆さんが、明日を作るというミッションを胸に、新しいことに挑戦し、発見し、創造し、平和の構築に寄与することを、私は願っています。

卒業式のことを、英語ではcommencementといいます。commencementには「始まり」という意味もあります。学位を与えられ、ひとつの課程を修了した今日は、ひとつの始まりでもあります。新たに始まる皆さんのこれからの人生が、祝福された、実り豊かなものであるようにと祈り、私からのお祝いの言葉といたします。