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学生の生成系AIの使用に関する考え方を公開しました
公開日:2023年5月24日
2023年5月24日に、本学の学問的倫理基準(アカデミック・インテグリティー)に基づき、「学生の生成系AIの使用に関する本学の考え方」を学生および一般に公開しました。
本学では生成系AIに関する課題について協議を重ね、4月にリベラルアーツのための英語プログラムにおける指針を学生に発表しましたが、今回あらたに教養学部長・大学院部長・学生部長が中心となり、本学の教育全体に関わる考え方を作成し公開するものです。
全文は以下からお読みいただけます。こちらにも公表しています。
学生の生成系AIの使用に関する本学の考え方
1. はじめに
最近話題となっている生成系AIについて皆さんもご存知だと思います。加速度的に進化する人工知能の一形態で、便利なツールとして注目されていますが、同時に様々な潜在的危険性が指摘されています。ここでは、生成系AIを利用することに対する国際基督教大学としての基本的な考え方について示します。
国際基督教大学は、自由で独立した思索力と批判能力を身につけ、真理と自由のもとに理性的な決断を行ない、この決断にともなう責任を引き受けることができる人を世に送り出すことを使命としています。すなわち学生の皆さんには、自らの力で考え、それを批判的に吟味し、高い学術性と倫理性を追求し、それらを社会の中での実践に結びつけることが期待されています。
2. 生成系AI(Generative AI)とは
このような本学の学問的倫理基準において、生成系AIの使用はどのように位置づけられるでしょうか。生成系AIはインターネット上あるいはその他のデータベース上にある既存の文書や画像などの大量データを機械学習し、ユーザーの入力する質問(プロンプト)に対する回答を自然言語やその他の形で出力することのできるプログラムです。
生成系AIは今後、インターネット検索のように日常生活の中に組み込まれていく可能性がきわめて高く、21世紀に生きる皆さんには、今後これらのツールを使いこなし、功罪を検討し、解決策を模索し、言語や文化の違い・障がいの有無などの差異を超越した新しいコミュニケーションのあり方や、文明における人間のことばの重要性を検討するなど、プログレッシブな利用を試みていくことが必要となるでしょう。
3. ICUのアカデミック・インテグリティーの方針について
上述したような生成系AIの今後の発展や社会利用の可能性を鑑みると、「明日の大学」を標榜する本学として、生成系AIの使用を全面的に否定するものではありません。一方で、生成系AIが作成したものを本学における成績評価のための提出物に使用し、あたかも自分自身が作成したかのように振る舞うことは、本学アカデミック・インテグリティーの方針が定義する「剽窃」すなわち「他人の作品・考え・研究成果を自分自身のものとして偽ること」に相当します。アカデミック・インテグリティーについての本学の方針には以下のように記載されています。
「他人の研究に使われている考え方や言葉、文章や調査研究をあたかも自分自身のものであるかのように偽ることは、学問的倫理基準を侵すことになります。教員の評価を受けるための学生の提出物(レポート、試験の答案など)は、自分自身のもの(オリジナル作品)でなければなりません。学生は自分自身で考え、調査研究したものでない情報の出典は、明らかにし、正しく引用することが求められます」 「アカデミック・インテグリティー(学問的倫理基準)に関する本学の方針」2004年2月19日
さらに、生成系AIには以下のように、学問的客観性や倫理面、安全性の点での懸念もあります。
- 生成系AIが使用しているデータは、他人の著作物や発表物、調査結果から成り立っているため、AIが出力する回答自体が、著作権侵害や剽窃である可能性がある。
- 出力される回答の不正確性が指摘されている。
- 蓄積されているデータの狭さ・偏り・誤りが出力に反映され、人種・ジェンダー・言語・宗教上の差別を再生産してしまう可能性が指摘されている。
- 入力した内容はサーバに保存され、回収や削除ができないため、プライバシーやセキュリティ上の危険性がある。
- 開発・利用法についての世界的な共通ルールが確立されていない。
生成系AIを適切に使うためには、細心の注意と専門的な知識が必要であり、出力された回答を批判的に検討し、問題点を修正することが必要です。また、生成系AIに頼ることは、他者に伝えるために自らことばを紡ぐという人間の営為を放棄することにもなり、皆さん自身の創造力や批判的思考力、さらに情報収集・整理・議論・作文・語学などの能力の修得を妨げ、学び育つ機会を自ら奪うことになります。
4. 本学の方針
これらを踏まえ、本学では学生の創造性や批判的な思考過程を重視する立場から、学生が課題に取り組むにあたり、自ら考え、調査し、反芻し、自らのことばで回答を作成することを求めます。生成系AIが作成した文章は、多少の改変を加えたとしても、自身で作成したものとは認められず、アカデミック・インテグリティーの方針に抵触すると判断されます。また自身で行うことが求められたタスクを、生成系AIに行わせることも認められません。これらの方針に違反した場合は、アカデミック・インテグリティーの方針に違反した場合と同じ扱いとします。
ただし、担当教員からAI使用について特に指示がある場合は、この限りではありません。
各自の履修する授業でのAI使用方針については、担当教員に確認してください。特別な指示がない場合には、本方針が適用されます。
5. 生成系AIを使用する場合に気をつけること
生成系AIを使用する際には、自分や他人の個人情報、他人の著作物、未公開の研究成果、秘密にすべき情報などを入力しないように細心の注意を払ってください。入力した情報をシステムに学習させないオプトアウトを選択することは最低限必要です。ただし、オプトアウトした場合でも予期せぬプライバシー侵害の懸念が残ることに留意してください。
6. 最後に
本学では、課題成果物そのものよりも、成果物へ到達する思考過程を問うています。その過程を経て初めて「自由で独立した思索力と批判能力」を修得できるからです。課題などへの回答に際しては、自ら考え、作文し、推敲し、批判検討し、大切にことばをつむぎ出してください。皆さんの創造力と批判的思考力に期待しています。
教養学部長 生駒夏美
大学院部長 溝口剛
学生部長 木部尚志