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2024年夏季卒業式を挙行
公開日:2024年7月12日

7月12日(金)、大学礼拝堂において2024年夏季卒業式を挙行し、学部生120人、大学院生44人あわせて166人が本学を卒業しました。
式典は、個を尊重する本学の特徴をあらわす献学時からの伝統に則り、卒業生・修了生一人一人の名前が紹介されたほか、聖書朗読、岩切学長式辞、グリークラブの合唱などが行われました。
また、2024年3月末に退任された佐藤豊教授が、名誉教授の称号を授与されたことが、エスキルドセン,ロバート学務副学長より紹介されました。
聖書朗読:マタイによる福音書 第13章 3-8節
岩切正一郎学長 式辞(全文)

教養学部アーツ・サイエンス学科を修了し、学士の学位を取得された皆様、また、大学院アーツサイエンス研究科博士前期課程、後期課程を修了し、それぞれ、修士、博士の学位を取得された皆様、ご卒業おめでとうございます。中継を通じてご参加くださっているご家族、ご親族、ご友人の方々にも心よりお慶び申し上げます。
ICUは、75年前の開学以来、約3万人の卒業生を世界へ送り出してきました。皆さんは、その最も新しい卒業生として、これから、各自、人生の次のステージへと一歩を踏み出します。
ICUのリベラルアーツ教育を修了した人は、もちろん、論文の執筆を通じて、自分の選んだ分野において専門的な研究に取り組んだ人です。
けれども同時に、アーツ・アンド・サイエンスのコースを幅広く履修することで、自分の専門以外の、他のさまざまな分野の知識や考え方に親しんだ人でもあります。そのようにして皆さんは、個別の専門性に限定されない、普遍的な性質を身につけた人に育った、と言うことができるでしょう。
このような知のあり方を高く評価していた人がいました。17世紀の思想家で科学者でもあったブレーズ・パスカルです。彼が理想としたのは、自分の得意な限られた分野のことなら何でも知っているけれど、それ以外のことになると他人と話ができない、というような人ではなく、いろいろな話題について対話することができる人でした。それを「普遍的な人」(les gens universels)という言葉で表現しています。
人々の集団の中で、他人から、一個の専門性のレッテルを貼られて、数学者だ、とか、詩人だ、とか言われるよりも、「普遍的な人」(People with universal minds)のひとりであるほうが良い、と彼は『パンセ』のなかに記しています。
ちょっと引用してみましょう。
「普遍的な人たちは、詩人とも、幾何学者とも、その他のものとも呼ばれない。」
「人から「彼は数学者である」とか「説教家である」とか「雄弁家である」と言われるのではなく、「彼はオネットムである」と言われるようでなければならない。この普遍的性質だけが私の気に入る。」
(前田陽一・由木康訳)
では、専門性は不要なのか、というと、そういうことでもありません。
専門的なことがらが話題になったときには、専門的な知識を使って判断したり評価したりできる人として、他人からちゃんと一目置かれる人でなくてはならない、とも言っています。
「何行かの詩句の品定めが問題になっているのに意見を求められないのは、悪い徴候だ。」
(塩川徹也訳)
一般的な話題のときには普遍人として自分の考えを述べることができ、いざ専門性が求められる場面になるとちゃんと専門家として発言できる、それがパスカル的な理想です。
皆さんがリベラルアーツで身につける知識のあり方と通じるところがあるのではないでしょうか。
一旦は修了したリベラルアーツの学びに、終わりはありません。これからも皆さんは、まだ答えの発見されていない課題に向き合いながら、答えを求めて、それぞれの立場で生きていくことになります。"A specialist with a universal mind" として、グローバルな環境のなかで活躍していただきたいと思います。
今、世界では、ウクライナやパレスチナをはじめとして、各地で、市民の日常生活や文化を破壊し、生命に対して深刻なダメージを与える暴力や紛争が、絶えることなく起こっています。
そのように大きな災厄がある一方で、なかなか人々に意識されない隠れた暴力や不公正もまた常に存在し、個人や社会が求める幸福を阻害するものとなっています。
皆さんは、論文の執筆を通じて専門的な課題に取り組みながら、同時にその特殊な課題が、普遍的な問題へつながっていると感じてもいたのではないでしょうか。人はどのように幸福であり得、社会や文化はどのように豊かであり得るのか、といったような課題です。そうしたことに思いを馳せ、様々なレベルでの苦しみや絶望にたいして、希望へとつながる手だてを、学術的なバックグラウンドをもって追求する、そのような営みを皆さんは行ってきました。
その成果が、学問の世界だけではなく、実践においても、皆さんの手で、様々なレベルで社会へ有効に還元されることを私は願っています。
皆さんが過ごしたICUの日々は、一人ひとりの中に、とても多彩で、豊かな日々として生き続けることと思います。それは個別の経験でありながら、同時に、この同じキャンパスで、同じ時を過ごし、語り合い、議論しあった、共有された日々でもあります。個別的でもあり共有されてもいる印象と経験が、これからの皆さんの日々を、明るく照らしたり潤したりしてくれると思います。
どうぞ皆さん、ICUで得た経験と友情を大切に、良き人生を歩んでください。
ご卒業、おめでとうございます。
名誉教授称号書 授与
佐藤豊教授
佐藤教授は26年以上にわたり国際基督教大学に奉職されました。卓越した研究者、教員、指導者として、数多くの学生に影響を与え、その研究や知見を支えてこられました。日本語教育、言語学、日本語学の分野で数多くの著作を発表され、その学識は海外の日本語学の研究にも大きな影響を与えました。また、熱心な教育者、研究者として本学に貢献されただけでなく、多くの役職も務められました。すべての役職において、本学の行政・運営と教育の向上のために力を尽くされ、教育、研究、サービスにおけるICUの理念に対するコミットメントにおいて、佐藤教授は私たちの模範となってくださいました。