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トム・エーリク・アーンキル氏による講演会「早期対話への招待 ―大学の場での対話的な空間の共創―」を開催

公開日:2025年3月11日

2024年11月29日、トム・エーリク・アーンキル氏を招いての特別講義「早期対話への招待 ―大学の場での対話的な空間の共創―」が理学館教室にて開催されました。ICUでは、「対話」がリベラルアーツ教育における学びの中心となります。本講義は、ICUが大切にする「対話」への理解、そして対話をより効果的にする方法についての理解を深めるため、学務副学長とICU人権委員会の共催により開催されました。司会はロバート・エスキルドセン学務副学長が務め、学生、教職員約40名が参加しました。

トム・エーリク・アーンキル氏は対話的手法の開発に焦点を当てた研究を行い、特にEarly Dialogue(早期対話)およびAnticipation Dialogue(未来語りのダイアローグ)の手法の開発において中心的な役割を果たしてきました。今回は特にEarly Dialogue(早期対話)と、対話的な空間をつくるためのポイントについて講演を行いました。

講義冒頭では、司会のエスキルドセン学務副学長がアーンキル氏を紹介し、オープン・ダイアログ、早期対話、そしてアーンキル氏との出会いについて語りました。

アーンキル氏は"Early Dialogue"(早期対話)という概念の紹介から講義を始めました。早期対話は、問題に直接的に介入することではなく、人間が持つ不安や懸念に焦点を当てながら、早めに対話を行い、問題に対処していくことです。アーンキル氏は、人間には生まれつき対話をする能力が備わっていると述べました。また、人は誰しも経験や人間関係によって形成された独自の視点を持っており、真の対話とは、視点の相違を認識し、尊重することだと語りました。

次に、アーンキル氏は効果的な対話をするためのポイントに焦点をあてました。アーンキル氏は、対話に適した環境づくりをすること、対話の前にまずお互いを理解し、信頼関係を築くこと、対話と討論や意思決定との違いについて理解することをポイントとして紹介しました。

講義ではディスカッションの機会も複数回設けられました。アーンキル氏は「悩みがあるとき、伝えることを躊躇してしまうことはありませんか? 私たちはなぜためらってしまうのでしょうか?」と問いかけました。参加者同士でからは多くの経験が共有されました。

アーンキル氏は、悩みを打ち明けることを躊躇してしまうのは、自分の行動の結果により、人間関係を壊してしまうことや、相手を傷つけてしまう可能性を想像してしまうからであると指摘します。しかし、このような時にも早期対話の手法でオープンなコミュニケーションを行い、相手とともに解決策を探していくことで、早めの対処ができると述べます。効果的な手法として、相手への非難を避けること、相手に変化を求めるのではなく、助けを求められるようにすること、そして信頼する相手とのコミュニケーションを日々実践していくこと等をあげました。

最後の質疑応答では、「対話するということと、他者にsympathy(同情)を持つことの違いは何でしょうか?」という質問がありました。これに対しアーンキル氏は、sympathy(同情)とは、相手に対して同情の気持ちを持つことであり、empathy(共感)とは、相手の感情に入り込み、その感情の状態を理解することだと述べます。そして、対話を促進し、有意義な人間関係を築くためには、共感と同情の両方が不可欠だと答えました。そして最後にもう一度、誰しもが独自の視点と経験を持っていることを認識し、相手の「他者性」を尊重し対話することが重要であると述べました。

参加した学生からは以下のようなコメントがありました。

  • 納得のいかない意見に対しては、相手の経験を尋ねることで、その根拠を理解することができる、それによりdialogueがdebateに変わってしまうことを防ぐことができる、というのは目から鱗でした。翌日、これにより、ある身近な人との対話を成功させることができました。
  • 本講義は改めて、「対話」とは何か、それはディベートなどとはどう違うのか、そういった点を明確にし、その上でICUが重んじる議論を中心とした授業において、ディスカッションをいかに対話的な、より良いものを生み出すプロセスにできるのか、それに対する明確で、役に立つヒントをくれたと感じています。

今回の講義は、ICUが大切にする対話や、対話的な空間を生み出す方法ついて、理解が深まる内容でした。様々な場面でディスカッションを行う機会が多いICUの関係者にとっては、非常に実りの多い講演となりました。