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2025年春季入学式を挙行

公開日:2025年4月2日

4月1日(火)、マクリーン通りの桜が七分咲きを迎える中、2025年春季入学式を大学礼拝堂で執り行ない、国内外からの新たな学部生・大学院生、本学と交換留学協定を締結している大学からの留学生、合計786人を迎えました。

式典では、1953年の献学以来、70年以上にわたり引き継がれている伝統に則り、新入生一人ひとりの名前が紹介されたほか、世界人権宣言の原則にたち大学生活を送る旨を記した誓約書に入学生全員が署名を行いました。また、学生宣誓への深い理解とともに大学生活をスタートさせてほしいという願いから、ICU生が英語翻訳を手掛けた『ビジュアル版世界人権宣言』が新入生全員へ配布されました。

そして、岩切正一郎学長が、新たに集った新入生へ歓迎の言葉を贈りました。

岩切正一郎学長 式辞(全文)

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教養学部ならびに大学院博士前期課程・後期課程新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、ご家族、ご親戚、ご友人のみなさまにも、心よりお祝い申し上げます。

今日はたまたま雨が降っていますが、雨の風情もまた美しい桜の花の咲き匂うキャンパスに、こうして皆さんをお迎えでき、大変嬉しく思います。

ICUの一期生であられた故・茅野徹郎氏のお書きになった文章が『歩み』という本にまとめられています。茅野氏は1980年代にアメリカホンダ社長をお務めになった方です。その中に、学生時代を回顧した次のような一節があります。

建設途上のICUキャンパスにはアルバイトの仕事が肉体労働を厭わなければ沢山ありました。アメリカから寄付された桜の苗木をマクリーン道りに植えるアルバイトもやりました。

マクリーン通りというのは、みなさんもご存じの通り、大学正門からバス停のあるロータリーまでの長い道で、今では桜の並木道になっています。ICUは開学して73年目を迎えたので、そろそろ桜も植え替えの時期になり、新しい桜の木も増えてきました。けれども何本かは古いままの木が残っています。きっと、一期生が植えた木からも、皆さんの入学を祝福して花びらが舞っていたのではないでしょうか。

ICUに一期生が入学したのは1953年です。日本は第二次世界大戦が終結して以来、連合国軍の占領下にあり、1952年に主権を回復したばかりでした。そのような時期に、私たちの大学は、北米と日本の市民による寄付をもとにキャンパスの土地を購入し、「明日の大学」、University of Tomorrowという標語を掲げて、教育・研究機関としての一歩を踏み出しました。

ICUは、学生を国際人、今の言葉で言えば、global citizenへ育て、また、平和をつくる人peace builderに育てることを献学の理念に据えました。
そして設立当初から、個としての人格、自由、民主主義、平等、対話、国際性、多様性、批判的思考を大切なものとして価値づけました。そしてその基盤に、神と人とに仕える、という心と行動の規範を据えました。それらは理念であると同時に、生活のなかで実践される具体的な実質をともなっていました。理念を実態化し、日々のキャンパス生活を通じて自分のなかに文化として組み込み、ほかの人とも共有する、それが大学における教育の重要な役割の一つでした。
そのために最もふさわしい教育システムとして、ICUは開学以来一貫してリベラルアーツ教育を実践しています。それは、しなやかな構造を持ち、風通しがよく、知的な養分を十分に提供する教育と研究のシステムです。

皆さんはこれからArts and Sciencesという名の学科あるいは大学院研究科で学びます。私はそのことを繰り返し強調しているのでもう聞き飽きたと思う方もいらっしゃるかも知れませんが、ここでのScienceは、その言葉の本来の意味である「知ること」、知識という意味を持っています。そしてArtも、その本来の意味である「技術」という意味で使われています。つまり、リベラルアーツでの学びは、未知のものを発見し知のフィールドへ運び込む行為と、未だ形になっていない新しいものを他者と共有できる形へ変える技術とが合体したものです。

新しいものを見つけ、みんなで共有する。その情熱と楽しさがICUでの学びを支えています。皆さんにはぜひ、社会にイノベーションをもたらす人へ育つと同時に、自分自身に対してもイノベーティブであって欲しいと思います。

新しいことを着想するためには、知識を集積すると同時に、想像力のための適度な隙間を作っておくことも大切です。ICUのキャンパスには豊かな自然環境があります。普段私たち人間には見えないところでネットワークを作っている生き物たちのなかに身を置いて、光や風を感じながら、特に何の役に立つわけでもない余白のような時間を持つことができるのもICUの良いところです。

思想家のハンナ・アーレントは'All thinking is done in solitude' 「思索はすべて孤独のうちになされる」と言っています。自分自身の感性を育み、新しい独特の思考を形成するためには孤独な時間も必要です。自然はその孤独に寄り添ってくれます。

先ほど聖書朗読を聞きました。その一節をなぜ選んだのかというと、学生時代は、やはり特権的な時間だと思うからです。学生時代には、自分の魂が知りたい、聞きたい、と望んでいることを大切にし、自分へと語りかける真実の声に耳を傾けて欲しいと思います。批判的思考は、論理だけではなく、愛や誠実さや良心と共に働くものです。大学での学びや研究において、考えるという行為には、ちょうどイエスの言葉に耳を傾けるマリア(ルカによる福音書 第10 章 38-42 節)のような心持ちが含まれているのではないでしょうか。ただし先生たちは神ではありません。したがって今私が言っているのは、先生の言うことをひたすら拝聴しろというのではありません。反論したり議論したりすることのほうが大切です。ただそのおおもとにあるのは、世間的な気遣いに縛られることなく真実へと開かれている心です。人間が愛のうちに聞く真実の声が皆さんのこれからの学生生活のなかにあることを願っています。

大学や大学院での勉強や研究は、自分を大きく変える経験です。私が自分自身の過去を振り返ってみると、それは、自分が馴染んできた自分の存在の仕方に、べつの異質なものを組み込む進化だったように思います。

ちょうど古細菌がミトコンドリアとなる細胞を取り込んでエネルギー変換機能を獲得したり、真核生物の細胞内にシアノバクテリアが共生することで葉緑体が生まれたりしたように、私たちは、生きていくうちに、自分の思考や感覚のシステムのなかに、それまで自分の外にあったシステムをとりこんで、それまでとは違った新しい自分を生成してゆくのではないでしょうか。

例えて言えば、自分の内面のなかに、知的なエネルギーを作り出すミトコンドリアのようなものを採り入れたり、知的な光合成をして魂が息をするための酸素を供給するシアノバクテリアのようなものを採り入れたりして、自分を変革していくのだと思います。

とりわけ十代の終わりから二十代にかけて起こる変化は、その後の人生の基盤となります。

皆さんはその変化の場所としてICUを選びました。とても素晴らしい選択です。なぜなら、リベラルアーツは、ひとつのシステムのなかに、それとは別のシステムを組み込みながら、新しいシステムや物や考えを生み出し、人と社会を進化させる自由で創造的なアートにほかならないからです。ICUはそのリベラルアーツを実践する大学です。

これから皆さんは、学生生活を通じて、一人ひとり、自分の人生をデザインし、進化し続ける能力を身につけてゆきます。今日から始まるリベラルアーツの学びを通じて、皆さんのなかに、人間や世界についての新しい理解の仕方への扉が開かれることを願っています。