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NSフォーラム×学長コンボケーションアワー 川添史子氏による講演会「暮らしというものは科学的」を開催
公開日:2026年5月15日

2026年5月11日、NSフォーラム×学長コンボケーションアワーが開催され、物理学者の川添史子氏による講演「暮らしというものは科学的」が行われました。
今回、お招きした川添氏は、重力波検出の国際共同研究に長年携わってきた研究者です。現在はドイツ・ハノーファーを拠点に、レーザー干渉計を用いた重力波観測に取り組んでおり、日本のTAMA300プロジェクトにも初期から参加されてきました。
講演の冒頭、川添氏は、人文科学と自然科学を分けて捉える見方が広く共有されている一方で、実際の学びの場では両者は深くつながり合っているのではないか、と語りかけました。音楽は波動の物理と切り離せず、哲学は科学の出発点でもある。歴史も、社会学も、経済学も、言語学も、データ分析や統計、検証可能な理論といった科学的思考に支えられている— そう例を重ねたうえで、諸分野は本来「環」のようにつながっており、学生にはその境界を越えて自由に組み合わせ、新しいものを発見してほしい、と呼びかけました。
学び方についての話も印象的でした。好奇心に気づき、よく観察し、問いを立てる。けれども、すぐに答えを出そうとせず「問いを温める」ことが大切だ、と川添氏は言います。恩師である国立天文台の川村静児氏から学んだ「ぼうっとする」という研究姿勢にも触れ、思考をいったん手放して脳をさまよわせる時間こそが、直感を育て、未知の世界を進むときの道しるべになると述べました。
後半では、ご自身の研究テーマである重力波検出について、子ども時代の「好奇心の種」をたどりながら紹介がありました。6歳でビー玉を斜面に転がして競争させた話、ホームに停まっている電車にトンボが飛び込んだらどうなるのか気になって仕方なかった少女時代の話— どれも、後に物理学者となる道筋を予感させる、ちょっと可笑しくて愛おしいエピソードでした。重力波は時空のさざ波で、その伸縮はおよそ10のマイナス21乗メートルという気が遠くなるほど小さなスケール。それでも、マイケルソン干渉計を発展させた装置によって、今ではほぼ毎日のように検出されているといいます。2015年の世界初検出の瞬間、最初に信号を目にしたのが、川添氏と同じハノーファーの2人のポスドクであったというエピソードも語られました。
科学的思考とは、自分の考えを外に出し、他者の視点を「誤差信号」として受け取り、また思考に戻していくフィードバック・ループのことだ、と川添氏は言います。車もエアコンも、この原理なしには動かない。さらに、冬に洗濯物を室内に干したときの湿度の変化を例に挙げ、「暮らしのなかにも、科学はそこかしこにある」と説明しました。最後は「好奇心こそが科学の出発点」という言葉で講演が締めくくられました。
質疑応答では、ドイツと日本の理工系教育の違いや、リベラルアーツでダブルメジャーをどう選ぶかをめぐって、活発なやりとりが交わされました。川添氏は、ドイツでは博士課程に進むために早くから専門を絞る必要がある一方、日本では博士課程そのものが学びのプロセスとして位置づけられている点に触れ、「どちらの文化にもいい面がある」と述べました。また、ご自身が大学受験の戦略から物理を選び、その後も生物学への関心を抱き続けてきた経験を率直に振り返り、「10年後に何が役立つかを考えるより、今学びたいものを選んでほしい」と学生に語りかけました。
リベラルアーツの本質と、第一線の研究者としての歩みが重なり合う、温かくも刺激に満ちた講演となりました。
