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時枝 正 特別招聘教授による集中講義を開催

公開日:2026年6月25日

2026年6月15日、16日、17日、時 枝正(ときえだ ただし)特別招聘教授/スタンフォード大学数学科教授による集中講義「りようしようりょうしりきがく」がトロイヤー記念アーツ・サイエンス館で開催されました。時枝教授の専門は位相幾何学・数理物理学で、世界各地においてユニークな数学・物理教育を実践し、「手を動かして考える」アプローチで知られます。今回は、昨年冬学期に好評を博した3回連続講義「紙ひとえからの世界」「数も式もない計算」「切ったり貼ったり手品ショー」に続く、初夏の全4回シリーズでした。

当日の司会は鏑木 崇史(かぶらぎ たかし)准教授が務め、情報科学概論の履修生をはじめ、オンライン参加者を含め各回約120名の学生・教職員が参加しました。
今回のシリーズのテーマは、量子力学を「学ぶ」ことではなく、量子力学を「使う」ことでした。量子力学が発見されてから今年で100年。半導体・医療・原子力など、現代の日常生活を根底から支える数多くの技術が量子力学の上に成り立っています。しかし、その理解と習得には今なお高い専門的知識が必要とされており、多くの人にとって遠い存在であり続けています。

講義で時枝教授が提示したのは、量子力学を支える3つの考え方、すなわち①プランク定数を用いた次元解析、②ハイゼンベルクの不確定性不等式による閉じ込めエネルギーの見積もり、③ポテンシャルの活用を駆使することで、専門的な知識を前提とせず、複雑な方程式を解くことなく答えを「見積もる」アプローチです。そして、このアプローチの導入として時枝教授が紹介したのが、フェルミ推定です。その一例として「アメリカのシカゴには何人のピアノ調律師がいるか?」といった一見途方もない問いに対し、世帯数・ピアノの総数・調律の年間実施件数などを順に積み重ねることで、厳密な調査なしに答えに近付いていいくことで知られる思考法です。コンサルティング会社やIT企業の就職の面接などに登場することでも知られています。講義では、そのフェルミ推定に量子力学の3つの考え方を前提知識として加えることで、お菓子1口分のカロリーや年間降水量といった身近な日常の事柄から、水素の原子半径や水の結合エネルギーといったミクロの世界、さらには中性子星の半径やブラックホールのエントロピーといった宇宙スケールの現象まで、驚くほど幅広い対象を精度よく見積もることができるということでした。

参加した学生からは以下のようなコメントがありました。

  • 生物を宿すものは主にCHNOPSの分子から構成されており、その組成や量からカロリーを求めることができるという説明には驚きましたが、よく考えてみると食べ物も結局は物質でできているためその性質からエネルギー量を計算できるというのは確かに納得できるなとも感じました。

  • 世の中にぶら下がっている雫は、なぜどれも同じようなサイズなのかという問いです。〔...〕重力と表面張力という身近な力からあのサイズが導き出される計算プロセスを見て、普段何気なく見過ごしている景色の中にも、すべて物理の明確な理由が隠れているのだと気づかされました。文系の自分にとって日常の風景の解像度がグッと上がるような新鮮な驚きがある講義でした。

  • シュレーディンガー方程式のような難解な計算が必要だと思い込んでいましたが、先生はそれを一切解かず、『波がきっちりはまる』という視覚的でシンプルな条件だけで、あっさりとエネルギー準位を導き出していた点です。一見すると手も足も出ないような課題に対して、正面から複雑な処理をするのではなく『視点を変えてシンプルな本質に落とし込む』ことの威力を実感できたからです。

  • The estimate that a 50g piece of candy has about 10^6 joules, which is around 240 kcal, made the idea feel more concrete. This example stuck with me because I didn't really need a full understanding of physics to understand. It showed me that rough estimation is useful not just for solving textbook problems, but also for making sense of things we encounter in daily life.

  • シンプルな見積もりによって、年間降水量などの現実のデータを即座にはっきりと導き出すプロセスが面白いなと思いました。少ない変数から本質的な数値を導き出して、実測値と比較することでその妥当性を検証する手法は、データサイエンスのモデル構築の思考法と共通していると感じました。

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