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NHK日本賞受賞者を招いた特別イベントを開催
公開日:2025年11月28日

2025年11月21日、国際基督教大学(ICU)は、NHKが主催する国際ドキュメンタリーコンクール「日本賞」の受賞者を招き、特別イベント「NHK日本賞上映会+トーク at ICU」を開催しました。
当日は受賞3作品の上映に加え、エジプトとカナダから制作者2名をキャンパスに招聘。学生たちは、世界の社会課題を鋭く切り取った作品に触れるとともに、制作者との対話を通じて「映像が持つ社会変革の力」や「メディア情報の捉え方」について白熱した議論を交わし、多角的な視座を獲得する貴重な機会となりました。
本イベントでは、以下の3本のドキュメンタリーが上映されたほか、2名の受賞者が登壇し、制作背景について語りました。
「夢と運命の境界で」プロデューサー Ayman El Amir氏
青少年向け部門 最優秀賞作品である「夢と運命の境界で エジプト 少女たちの岐路/The Brink of Dreams」のプロデューサーを務めるAyman El Amir氏が登壇しました。この作品は、エジプト南部の村で、伝統的な家父長制に抗い夢を追う少女たちが、パフォーマンスを通じて異を唱え、成長と人生の選択に直面する姿を追ったドキュメンタリーです。
「メディアを探れ!」ホスト Nicole Stamp氏
児童向け部門 優秀賞作品「メディアを探れ!フレームのナゾ/Media Stamped What's in a Frame」のホスト、Nicole Stamp氏が登壇しました。この番組は、情報のフレーミング(切り取り方)が持つ影響を解説し、子どもたちにメディアを批判的に分析する方法を教えることを主眼としています。
一般向け優秀賞作品の上映
上記の2作品に加え、一般向け部門 優秀賞作品の「アメリカに続く道/Walk the Line」も上映されました。これは、中国市民が全てを賭けて中南米7カ国を経由し、アメリカへの移住を目指す姿を、シンガポールCNA特派員が同行取材したドキュメンタリーです。
上映後の制作者を迎えての質疑応答では、「ドキュメンタリーが社会にもたらす力」や「報道の公正さ」といったテーマで、白熱した議論が展開されました。
「夢と運命の境界で」のAyman El Amir氏は、作品が持つ社会への影響力について言及しました。被写体との信頼関係を築くため、4年間にわたり「常にコミュニティの一員になることを意識し、信頼関係を築いた」と説明。さらに、作品が世界に公開されたことで、少女たちが暮らす村の伝統的な家父長制の文化が「内部から少しずつ変わっている」という、映像の社会変革の可能性について強調しました。
「メディアを探れ」のNicole Stamp氏は、情報発信の仕組みを解説し、「メディアは必ずフレーミング(切り取り)をしている」と指摘。視聴者に対し、「その情報が流れることで誰が得をするのかを常に意識した上で、メディアの情報に接すれば、メディアによって自分の意見が左右されることがなくなる」と、情報に流されないための考え方を伝えました。
このテーマでは、報道機関で記者として働く卒業生からも、現場で情報を発信する立場ならではの感想と葛藤が寄せられました。卒業生はまず、「記事を出すということは、常にフレーミング(情報を切り取ること)を行なっていることなのだとハッとした」という率直な意見を表明し、メディアの切り口が読者に与える影響の大きさを再認識したと述べました。
また、また議論は、ニュースで多用される「受動態表現」が持つ倫理的な問題についても深まりました。 例えば、紛争や事件の報道において、以下の二つの表現には決定的な違いがあります。
- 受動態:「多くの市民が殺されました」
- 能動態:「軍隊が、多くの市民を殺しました」
難民・移民問題を扱った「アメリカに続く道」についても、学生からさまざまな意見や感想が寄せられました。ある学生からは、「ニュースでは難民や移住者がただの数字として扱われがちだが、映像を通して一人ひとりがどれほど困難で壮絶な人生を歩んでいるのかを実感した」という声が上がりました。難民の移住を違法に手助けする""難民ビジネス"について、「違法な闇ビジネスではあるものの、難民が命の危機に遭いながら移動する状況を見ると、それを手伝うビジネスを単純に善悪で割り切ることはできない」といった、意見も聞かれました。
本イベントは、世界レベルの教育コンテンツに触れることで、学生たちが国際的な社会課題を身近なものとして捉え、多文化への共感と理解を深める、極めて有意義な機会となりました。
文章・写真:学生 大園祥央