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2026年春季入学式を挙行
公開日:2026年4月2日

4月2日(木)、マクリーン通りの桜舞う中、2026年春季入学式を大学礼拝堂で執り行ない、国内外からの新たな学部生・大学院生、本学と交換留学協定を締結している大学からの留学生、合計716人を迎えました。
式典では、1953年の献学以来、70年以上にわたり引き継がれている伝統に則り、新入生一人ひとりの名前が紹介されたほか、世界人権宣言の原則にたち大学生活を送る旨を記した誓約書に入学生全員が署名を行いました。また、学生宣誓への深い理解とともに大学生活をスタートさせてほしいという願いから、ICU生が英語翻訳を手掛けた『ビジュアル版世界人権宣言』が新入生全員へ配布されました。
そして、岩切正一郎学長が、新たに集った新入生へ歓迎の言葉を贈りました。
聖書朗読
コリントの信徒への手紙二 4章18節 (宗務委員 城座沙蘭)
岩切正一郎学長 式辞(全文)
教養学部ならびに大学院博士前期課程・後期課程新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、ご家族、ご親戚、ご友人の皆さまにも、心よりお祝い申し上げます。
「春」という漢字は、陽の光を浴びて草が萌えいづる様を表していると言われています。「はる」という日本語には、草木の芽が張り、万物が活動を始めるという意味があります。英語の« Spring »は、鮮烈に迸り出る水や生命の躍動を感じさせます。フランス語の« le printemps »やイタリア語の« la primavera »には「最初の」という意味が含まれています。春は始まりの季節。今日から三日後には、キリスト教では生命であるイエス・キリストが死から復活した復活祭を祝います。
この生命溢れる春の日に、皆さんのICUでの学びや研究が始まります。
今、皆さんのなかには、ICUでの学生生活についてのいろいろな期待や夢やイメージが満ちていると思います。それはまだ空想のなかのICUです。これから現実のICUを経験し、何年か後には、皆さん一人ひとりのなかに、実体としてのICUが作られていることでしょう。リベラルアーツ教育と良い人間関係を通じて、皆さんの人生のなかに、豊かで個性的なみのりがもたらされることを願っています。
大学での教育は、「高等教育」と呼ばれます。英語では« Higher Education »、フランス語では« l'éducation supérieure »と言います。どちらも、「より高度な」教育という意味を持っています。
皆さんのなかには、学部生もいれば、大学院生もいますが、そのいずれの場合でも、明日から始まるICUでの授業において、自分が今まで受けたよりも一段と上のレベルの教育を享受することになります。
高等教育(大学)での学びにおいても、すでに専門家には知られているけれども、初心者である自分には知られていないものを知識として蓄えていく、という学びは重要です。けれども大学での学びはそれだけではありません。より一層重要なのは、自分にとっても他人にとってもよく知られていないもの、見えていないもの、気づかれていないものを発見し、見えるようにし、意識できるようにすることです。隠されている社会構造、意識されていない心の構造、解明されていない自然科学の真実、そういったものを明るみに出し、知として共有する、その営みが大学での学びです。ICUのArts and SciencesにおけるScienceの部分がそれに当たります。私はいろいろな機会に繰り返し言っているのですが、ここで言う「サイエンス」は、いわゆる理工系のサイエンスだけではなく、社会科学や人文科学も指しています。
知られているように、« science »の語源はラテン語の« scio »、「知っている」(I know)で、つまり知識ということです。知のシステムを文系や理系というカテゴリーに分ける以前に、あらゆる学問の根本にサイエンスがあります。大学における学びはその全てがサイエンスです。そこから出発して、私たちの知的好奇心が向かう先に、様々に分かれた専門分野があり、その専門のそれぞれに、特徴的な理論や分析方法があります。
新しく発見されたものは、新しい故にまだ世間一般には共有されていません。それを人と共有できる形に換えるスキルが、Arts and SciencesにおけるArtです。未知のものを知の領域へ運び込むために必要なスキル。その意味では、論文を書くこともartの実践です。
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19世紀のフランスの詩人にアルチュール・ランボーがいます。彼は、16歳のとき、1871年5月15日に書いた手紙のなかで、詩にとって大切なのは「見えないものを綿密に調べ」、「聞いたことがないものを聞く」ことだと言っています。
日本語で「詩」と訳されている英語の« poetry »、フランス語の« poésie »という言葉は、ギリシャ語の« poiein »という言葉から来ていますが、これは元々「制作する、作る」という意味を持つ言葉でした。現代の日本では詩人は言葉で新しい世界を創り、新しい感覚のあり方を示す人として高い評価を受けるどころか、独りよがりな空想に耽って気恥ずかしいことを言う人として「ポエマー」などと揶揄されることもありますけれども、見えないものを見、聞こえないものを聞く能力は詩的な能力で、人間の世界に新しい概念や物の見方や物質を作り出す学問の世界において大切な資質です。
さきほど聞いた聖書朗読のなかに、「見えるもの」と「見えないもの」の対比がありました。大学での学びや研究は、目に見える物質的な現象世界を対象とする一方で、その背後にある見えないものの感受へ開かれているという二重性を持っています。物質的な現象世界でうまくやっていくためのスキルを身につけるのが勉強の目的なら、大学での学びでもいわゆるコスパやタイパといったことが優先されるでしょう。けれども、ICUでの学びはそれとは違います。世界をより良くするための方法について考えたり、存在や人生の意味について考えたり、といった、あらかじめ用意された答えのない問いについての思考が、対話や批判的思考を通じて日常生活のなかで行われているのがICUでの学びです。質問すればすぐに答えを出してくれるAIの優秀さとは違う、感覚的な深みをそなえた、時間のかかる知的な営みです。
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ICUは、73年前に献学(建学)されました。その目的は、平和の建設に寄与する人をリベラルアーツ教育を通じて育てることでした。今も世界のなかで戦争は続いています。平和を求める人は、穏やかな日常を愛する人です。けれども、私たちの一見穏やかな日常も、それが現代産業やテクノロジーの恩恵を受けて支えられている以上、自然環境の破壊や戦争への加担ときれいさっぱり縁を切っているわけではありません。
グローバルなコンテクストのなかで、自分たちはどのような価値観とヴィジョンのもと、未来へ向かっていくのか、それをリベラルアーツの学びと研究を通じて問い続けていきましょう。
ICUの豊かな自然環境と人間関係のなかで、皆さんが、未知のものと出会い、それを知的に理解可能なものへ変換する創造的な学びと研究を実践していただければ幸いです。
ご入学おめでとうございます。