WHAT'S
LIBERAL ARTS?
リベラルアーツを体験する。

問い

一瞬とはどのくらいの
長さなのか。

教授陣による 回答①

「邯鄲の枕」 から「一瞬」を考える

「邯鄲の枕」から「一瞬」を考える

瞬間は文字通り瞬(またた)く間に過ぎ去ってしまうが、
遥かな精神の旅を包含することさえありうる

中国の故事「邯鄲(かんたん)の枕」をもとに作られた能『邯鄲』は、夢の中と現実世界との時間の流れの違いにかかわる作品です。蜀(しょく)の国の一介の青年である盧生(ろせい)が旅に出て趙の国の都邯鄲にたどりつき、宿で仙人の枕で寝ます。すると50年にわたる栄華を楽しむ夢を見ます。楚の国の帝となった盧生の舞に合わせた「四季折々は、目の前にて、春夏秋冬、万木千草も、一日に花咲けり、面白や、不思議やな」という謡には、夢の中での時の流れは現実世界とくらべると著しく凝縮されていることが表されます。盧生が目覚めてみると宿の主人が炊き始めた粟飯が炊き上がる前のわずかな時間しか経過していませんでした。

古代ギリシア叙事詩『オデュッセイア』では、トロイア戦争の英雄オデュッセウスが正体を隠して20年ぶりに故郷へ帰還します。彼の妻に求婚する大勢の男たちが集まり王位を奪おうとしている危機的な状況です。そこで乳母が膝の傷跡から彼の正体に気づきますが、オデュッセウスは乳母が声をあげないように喉を手でおさえて事なきを得ます。傷痕による認知の直前に詩人はメインプロットから離れて、かつて青年オデュッセウスが遠く祖父の住む土地へ旅をして狩りをした際に牙で膝を傷つけられつつも猪を仕留めた次第を詳細に語ります。70行以上にわたるこの傷の逸話は、オデュッセウスと乳母のそれぞれの心に、過去の時が甦って流れたことを示しているかのようです。

以上に紹介した東西の古典作品には、精神が時間や空間を超越するものであることが表現されていると思います。アウグスティヌスは『告白』第11巻で、人間の心は過去の記憶と未来への期待に分散しているが、神の愛により現在目の前にあるものへと集中できれば神のいます永遠の世界へと招かれると述べます。瞬間は文字通り瞬(またた)く間に過ぎ去ってしまいますが、ある特別な瞬間がイマジネーションの飛翔を引き起こす場合には、遥かな精神の旅を包含することさえありうると考えられるのではないでしょうか。

参考文献
小山弘志・佐藤健一郎校注・訳『謡曲集2』(新編日本古典文学全集59)小学館 1998年
ホメロス、松平千秋訳『ホメロス・オデュッセイア』(上下)岩波書店1994年
聖アウグスティヌス、服部英二郎訳『告白』(上下)岩波書店1976年

今まで「当たり前」だと思っていたことは、本当に当たり前?
その当たり前は誰が決めたのか、皆にとってそうなのか。
自分の先入観や偏った考えで、当たり前を決めていないだろうか。
見方が変わり、問いが深まり、今まで気付かなかった価値が見出されていく。
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