Every Day is “Global” at ICU.

-日常に息づくICUの「グローバル」-

Global ICU

卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

Misaki N. Natsuaki, Ph.D. 
カリフォルニア大学リバーサイド校 准教授
1998年 教養学部教育学科(当時)卒業
2001年 ICU大学院教育学研究科(当時)博士前期課程修了

多様性を認め、一歩下がって全体を俯瞰する

MisakiNNatsuaki_01.jpg

ワクワク感を追い求めて研究者に

現在、アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校で准教授を務めています。もともと研究者を目指していたわけではなく、自分が面白いと思うものを追いかけていたら、行き着いた先が大学教員だった、という具合です。

子どもの頃から、コツコツと調べ、新たな知識を得て、人と共有することが好きでした。問題の答えが突然ひらめいたり、「なるほど!」と思ったりする瞬間、英語で「aha moment (アハ・モーメント)」と言いますが、そこにたどり着くまでのワクワク感をずっと追い求めてきました。その感覚は、今の仕事でも一番大切にしているものです。

私の専門分野は発達心理学で、主に子どもの思春期から青年期におけるメンタルヘルスを取り扱っています。人間に限って興味深いのは、身長が伸びる、声変わりする、といった多くの身体的変化が現れるのと同じタイミングで、メンタルヘルスの問題が増加すること。この要因を探ることが、私の主な研究テーマです。

子どものメンタルヘルスの問題が発生する事例を見てみると、統計的に家族単位で固まっているケースが多く、そこには家庭環境や遺伝が複雑に絡み合っています。この問題を解き明かすために、例えば養子になった子どもと、生みの親、育ての親のデータを収集し、生物学的な観点と家庭環境の両面からアプローチしています。私の研究手法は、一人の子どもを長期的に見ていくことが特徴で、一つの研究を完結させるのに15~20年くらいかかることも。また、実際に子どもと対面し、話をしながらリサーチを行う機会もあります。

研究の中で特に面白いと感じるのが、人間の「当たり前」について科学的に解明していけること。例えば、子どもに「ダメ」と言う時は、「なぜダメなのか」を説明することが大事だと一般的に言われています。そして、私が行っている研究でも、子どもをいさめる際に理由を説明することで非行を減少させるという結果が出ました。それを私の母に話すと「そんなの当たり前でしょ」と言われるのですが(笑)、「当たり前」を実証できることに喜びを覚えつつ、「人間って面白い」と改めて感じます。

研究の道を決定づけた先生との出会い

MisakiNNatsuaki_02.jpg

恩師・笹尾敏明先生(写真:右)と

私はアメリカの高校を卒業し、当時から9月入学が可能だったICUに迷うことなく入学したのですが、いま思えば本当に良い選択だったと思います。

何より大きかった出来事が、現在もICUで教鞭をとっている笹尾敏明先生との出会いです。研究者という職業を選択する上で最も大きな影響を与えてくれた笹尾先生には、感謝してもしきれません。海外の大学院時代も含め、指導教員の先生には本当に恵まれていたと感じます。

最初は先生が身に着けている蝶ネクタイが気になり興味を持ったのですが(笑)、授業を受けてみると、私が研究に対して抱いていた先入観を覆されました。授業で取り組んだことは、子どもの喫煙防止に関するリサーチ。受講前は、机に向かってコツコツと調べものをするイメージだったのですが、実際に行ったことは、ICUの近隣の幼稚園に電話をして、子どもたちと遊び、保護者の方々と話をすることでした。ある意味で泥くさいと言いますか、人間っぽい感じに惹かれ、研究にのめり込むきっかけとなったのです。

海外の学会に参加させていただいたことも大変貴重な経験となりました。学部生のうちから海外の学会に参加することはまれですが、笹尾先生は「研究を行って結果が面白かったら人に伝えないと意味がない」という考えを持っていて、このようなチャンスを与えてくれたのです。海外の研究者の前で発表することに少なからず不安はありましたが、実際にやってみるととても刺激的で、この経験が海外の大学院への進学につながったと感じています。

笹尾先生の指導は厳しく、執筆した論文に辛辣な添削が入ることもありました。しかし、研究を行う者にとって批評や批判はつきものです。他者から批評されたときに、どうやって自分のプラスに転化させるか。この技術を学べたことは、その後も研究活動を続けていく上で大きな財産となりました。

先生の指導と同じくらい大きな経験となったのは、友人との出会いでした。9月入学の帰国生で仲良くなった友人が何人かいて、東京の複雑な鉄道路線をはじめ、慣れない日本の生活に一緒に適応していきました。同じ心理学専攻の友人とは研究の話をよくしましたが、カラオケに行ったり、恋愛の話をしたりと、いわゆる普通の大学生活も満喫しました。ICUを卒業して20年以上経っても、親友と呼べる大切な存在です。

MisakiNNatsuaki_03.jpg

カリフォルニア大学リバーサイド校での研究室ミーティングの様子

誰もが自分に合った居場所を見つけられる

ICUで学んで何より良かったと思うのは、「考える」重要性に気づけたことです。入学してまもなく「脳を使うとはこういうことか」と実感しました。知識を得るだけでなく、一つ一つの物事に対して「もっと深く考えないといけない」と迫られるような体験の連続だった気がします。

きっかけは、哲学の授業でソクラテスの「無知の知」について学んだことでした。「知った」と思って生きることがどれだけ自分の成長を阻害しているか。「知らない」ことを知らないという事実がどれだけ恐ろしいか。これに気づいた時こそ、私にとって「aha moment」を感じる瞬間でした。

もうひとつ、ICUのリベラルアーツを通して学んだ大きなことがあります。それは、世の中にはさまざまな考えや意見があることを認めた上で、一歩下がって全体像を見るということ。専門分野を突き詰めると、どうしても近視眼的になりがちなので、全体を俯瞰する視点は研究者にとって重要です。とりわけ人間について包括的な理解が求められる立場として、この姿勢を身に付けられたことは幸運だったと強く思います。

この視点は、現在大学院生を指導する際にも役立っています。学生の関心は多岐にわたり、授業後には幅広い質問が寄せられます。自分の専門外のことであっても、全体の中で何がどこにあるかを理解していれば、大体のイメージをつかむことができます。

全体を俯瞰することは、多様性の中で自分に合った居場所を見つけることにもつながります。自分の可能性に気づくチャンスにもなるでしょう。現在、コロナ禍による自粛生活でどうしても視野が狭くなってしまいがちですが、世界は広く、いろいろな人がいて、さまざまな考えがある。その中で、自分に合った居場所を見つける、あるいは作ることができるのです。ICUのリベラルアーツは最初のドアかもしれませんが、きっと皆さんの道標になるはずです。

Profile

Misaki N. Natsuaki, Ph.D.(本姓:西村)
カリフォルニア大学リバーサイド校 准教授

1998年 教養学部教育学科(当時)卒業
2001年 ICU大学院教育学研究科(当時)博士前期課程修了

2006年カリフォルニア大学デービス校にて博士後期課程修了。同校博士研究員、ミネソタ大学博士研究員を経て、2009年にカリフォルニア大学リバーサイド校に助教として着任。2015年より現職。

MisakiNNatsuaki_prof.jpg