アイディール・リーダーズ株式会社 共同創業者/CHO (Chief Happiness Officer)
2005年 理学科(当時)卒業
真に自由な学びの環境で培った、自分らしい生き方
企業のパーパスを実現するべく伴走するコンサルタント
野村総合研究所の社内ベンチャーから生まれたIdeal Leadersというコンサルティング会社で働いています。Ideal Leadersの大きな特徴は、「パーパス(purpose:存在意義)」にフォーカスしたコンサルティングを行っていること。パーパスとは「この組織は何のために存在しているか?」という問いに答えるもので、これまで企業経営などで重視されてきたミッション、ビジョンに続く概念として近年、注目を集めています。パーパスを策定することで一貫性のある戦略が描かれ、一体感が生まれるのです。また、パーパスに共感した社員が高いモチベーションでその能力を発揮する、パーパスを起点に発想された商品・サービスが顧客の共感や支持を生む、といった多くのメリットがあります。
コンサルティングの具体的な手法・アプローチも他社とは異なります。一般的にコンサルティングというと、コンサルタントがクライアント企業の事業・組織の状況や競合他社の情報などを分析し、分厚い報告書を作って......というイメージを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。私たちはコーチングの技術や考え方がベースにあるため、答えはクライアントの中にあり、それを引き出すお手伝いをする、というスタンスを大切にしています。例えば、クライアント企業から30年後の将来構想(ビジョン)を作りたいというご相談があった場合、構想の中身を考えるというより、考えるプロセスをデザインし、「伴走」していくイメージです。外部のコンサルタントから一方的に提示された内容より、当事者の方々の思いが込められた内容の方が上手く実現すると考えています。
そうした中で私はCHO(Chief Happiness Officer)という役職を名乗り、仕事にあたっています。海外ではすでに広がりを見せているCHO、直訳すると「幸せ担当役員」となります。ポジティブ心理学のある調査では、仕事における幸福度が高い人は、そうでない人と比べて創造性が3倍高く、生産性や売り上げも30%以上高いといった研究結果が報告されています。他の方法で生産性を30%アップさせようとすると大変な労力がかかりますが、従業員が幸せを感じることによってそれが実現できるなら、組織にとっても個人にとってもハッピーではないでしょうか。こうした考えのもと、「幸せに働く人であふれる世の中をつくる」を私自身のパーパスとして、クライアント企業の社員の仕事における幸福度調査や幸福度向上の取り組みのお手伝い、多くの方を対象にした講演会など多様な取り組みを行っています。また、2018年には、関連する書籍も出版しました。

複合的な学びから得た、対話・ディスカッションの力
ICUに入学した理由のひとつとして、「文系・理系」という区分に疑問を感じていたことがあります。高校生の時、好きな科目は数学と世界史でしたが、その2科目が文系と理系で分けられてしまうことが不思議だったのです。そのような思いもあり、文理の垣根なく学べるICUのリベラルアーツ教育は魅力的でした。
入学後は当時の理学科で情報科学を学びました。プログラミングを習得することができ、今思えば大変有意義でしたが、当時はそれ以上にリベラルアーツ教育の特性を生かして幅広い分野の学びに注力しました。経済学や社会学、フランス語など、自分が面白そうだと思う科目は漏れなく履修していました。
そうした中で、村上陽一郎先生(ICU名誉教授)が担当されていた「科学技術と社会」をテーマとした授業が非常に興味深く、その分野の学びに傾倒しました。科学技術の中身よりも、科学技術を社会でどのように活用していくのかを考える視点に深く興味をもったのです。村上先生は、私の所属学科とは異なる人文科学科(当時)に所属されていましたが、先生の下で論文が書きたいと志願して卒業研究を行いました。こうした自分の専門とは異なる分野も学べる自由度の高い学びや分野を横断した複合的な学びは、ICU特有のものだと思います。
こうした学びから得た多様な知見は仕事にもつながっており、特に何らかの課題に向き合う時にさまざまな人との対話を通して解決策を講じる「マルチステークホルダー・ダイアログ」という考え方は、現在も多くの場面で生かしています。
ICU入学時に学びたいことが明確でなかった中で、自分のやりたいことを見つけられたのはリベラルアーツ教育のおかげです。また、ICUでは少人数教育が徹底されていて、場合によっては教室内にいる学生が3人程度の時もありました。そうなると「先生と学生」という感覚は薄くなり、「今日はこのテーマで議論しよう」とディスカッションが始まることも。今の時代、Webで検索すれば多くのことが分かるので、先生が正解を教えて学生がノートに書く、といった学び方は実社会ではあまり役に立たないと思っています。それよりも、主体的に考え、自分とは異なる他者の意見を聞いて議論を深めるICUの学びの方が、実社会で役立つことが多いと実感しています。

自分らしさを探求できる、ICUの学びの環境
コンサルティングの仕事は全てが新しい課題であり、ルーティンワークはありません。あらゆるテーマに対してゼロベースで考えることが必要で、多様な視点が求められます。専門的な知見が必要なように思われるかもしれませんが、一つの分野に精通しているより、幅広い分野に触れた経験や、知らない分野にも物怖じしない姿勢が重要となるのです。課題に向き合う際に全ての情報を把握している必要はなく、必要に応じて専門家に話を聞く。そして、その時に「なんとなく分かる」という感覚が大切です。実は、こうしたコンサルタントに必要な素養は、全てICUのリベラルアーツ教育を通して培われたと思っています。
私はCHOとして自分自身も楽しく幸せに働くことを大切にしていますが、仕事における幸せを実現する要素の一つに「オーセンティシティー」(authenticity:自分らしさ)があると考えています。「自分で選ぶ」や「自分の強みを生かす」とも言い換えられるのですが、それもICUの学びとリンクしています。何かを押し付けられることなく自分で選ぶというのはICUでは自然なこと。そうした環境で育まれた素地が、自分らしさを生かした幸せな働き方につながると感じます。
自分らしさを探求する上で、学びの「枠」がないICUは最適な環境です。いわゆる文系・理系という区分に留まらず、多彩な選択肢の中から自分の関心に合わせて創造的に学びをデザインできる大学は、他になかなか思い当たりません。その中で幅広く学ぶのも良いですし、一つの分野を極める道も当然尊重されます。一人一人の学生が自分らしく伸び伸びと学べる真に自由なICUの環境は、本当におすすめしたい特色です。
皆さんが将来、仕事や職場を選ぶ際には「自分自身が楽しめるか」「自分の強みが生かせるか」という観点を大切にしてほしいですね。人生の中で長い時間を費やすのが仕事ですので、楽しく働くに越したことはありません。実際に働いてみないと分からない、という考えも当然あると思います。働いてみて楽しくなければ「なぜ楽しくないのか」「自分はどのようなポイントを大切にしているのか」といったことを内省し、行動を変えていけばよいのです。そうすることで、同じ職場でもより楽しく働けるかもしれないし、あるいは新たな挑戦に踏み出す手がかりになるかもしれません。
Profile
丹羽 真理
「アイディール・リーダーズ株式会社」共同創業者/CHO (Chief Happiness Officer)
2005年 理学科(当時)卒業
ICU卒業後、英サセックス大学大学院にてMSc取得。2007年、株式会社野村総合研究所に入社。2015年、アイディール・リーダーズ株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。ウェルビーイング向上プロジェクト、経営者やビジネスリーダー向けのエグゼクティブ・コーチング、パーパスを再構築するプロジェクト等の実績多数。2018年にはウェルビーイング経営・働きがい向上に関する書籍「パーパス・マネジメントー社員の幸せを大切にする経営」を出版。
