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-日常に息づくICUの「グローバル」-

Global ICU

卒業生の声

関口 和寛 
国立天文台 光赤外研究部 教授/台長特別補佐
1981年 教養学部理学科(当時)卒業

まだ知らぬ宇宙の謎を解き明かすために

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"見えるものはすべて見る"観測天文学を探求

私は「観測天文学」を専門として、おもに銀河系や激変星などの観測・研究をしています。自分では「観測屋」と言っているのですが、「見えるものはすべて見る」ことをモットーに、対象を詳細に観測し、まだ解き明かされていない宇宙の謎を究明することが仕事です。

現在の研究テーマは、超新星爆発のように時間変動する天体現象を研究する「時間軸天文学(Time Domain Astronomy)」です。これは、天体の変化を時間軸に沿って調べることによって、その天体で起こっている物理的なメカニズムを知るというものです。

従来の天文学では、例えば銀河について知ろうとする場合、多くは静止した写真によって観測をしていました。時間の経過でその天体がどう変化していくのかという動的な観測は、日数とコストがかかるため、あまりされてきませんでした。ところが、近年では使用可能な望遠鏡の数が増えてきたことで、こうした時間軸に沿った観測・研究が可能になってきたのです。

ICUでは物理を学んでいましたが、次第に天文学への興味が芽生え、卒業後はアメリカ・ニューメキシコ州立大学の大学院に進みました。そこで、NASAが持つ紫外線衛星のデータを使った研究で博士課程を修了。自分で観測するのではなく、既にある観測データを駆使して研究を行いました。今でこそ、データアーカイブを使った研究は盛んですが、今から30年以上前にはそうした概念がなかったため、その分野ではパイオニアと自負しています。

大学院を出て、1987年に南アフリカ天文台で研究することになりました。ちょうど観測を開始したその日に、偶然マゼラン雲で超新星が爆発。これをきっかけに、現在に通じる超新星や激変星の観測・研究というテーマを見出しました。そこからは、ひたすら観測の日々。南アフリカで一生分の観測をしたと言っても過言ではありません。

南アフリカでの実績を買われたのか、その後、口径8.2mの世界最大級の「すばる望遠鏡」を有する国立天文台ハワイ観測所のプロジェクトに誘われ、微光天体測光分光器(FOCAS)という観測装置のPI兼ハワイ観測所のマネージャーとして関わることになりました。建設前からチームに加わり、観測所の立ち上げから調整、観測まで、すばる望遠鏡との付き合いは10年以上にも及びました。当時、国立天文台が海外に観測所をつくるのは初めてだったこともあり、さまざまな苦労もありましたが、2000年から世界中の研究者の共同利用がスタートし、新たな宇宙の謎に迫る有意義な研究がなされていることに誇りを感じています。

そして、日本と北アメリカ、ヨーロッパの共同運用によるアルマ望遠鏡を有するチリ観測所のお手伝いをし、現在はハワイ島でのTMT(Thirty Meter Telescope)プロジェクトに携わっています。これは、492枚の六角形のセグメント鏡からなる口径30mの主鏡によってハッブル宇宙望遠鏡の10倍の解像度を実現する大型望遠鏡です。完成すれば、最近数多く見つかっている太陽系外惑星の大気の観測なども可能になり、その組成を解析することで生物の痕跡なども明らかになると期待されます。2027年の完成を目指しているので、今の高校生や大学生が社会に出て活躍する頃には使えるようになっているでしょう。

最近では、「はやぶさ」*のように衛星が惑星まで行って直接サンプルを採取することも可能になりましたが、基本的に天文学は、宇宙から届く電磁波や光などを集めて解析するという「受け身の学問」です。向こうから来た情報をいかに詳細に解析して新しい知見を得るのかが天文学の肝となります。巨大な望遠鏡を使えば、より細かく詳細に観測することが可能です。何しろ宇宙は広いので、必ずと言ってよいほど新しい発見があります。私が物理学から天文学に転向したのは、まだ知られていないものが次々に見つかる楽しさを知ったからです。
本学同窓生で「はやぶさ」のプロジェクトメンバーであった、矢野創さんのインタビュー記事を同窓会Webサイトでご覧いただけます。 URL:https://www.icualumni.com/interview/guest028.html

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チリ観測所のアルマ望遠鏡

リベラルアーツは重要

高校時代は物理学に興味があり、かつ文化人類学にも興味があったので、どちらに進もうか迷っていたのですが、とりあえず大学に入ってから考えようと思い、ICUの理学科に入学しました。

ICUでは今もリベラルアーツ教育に力を入れていますが、アメリカの大学院に進んだ経験から振り返っても、リベラルアーツはとても重要だと感じています。物事は無から有が生み出されることはほとんどない、というのが私の実感です。今ある考え方と異なる考え方を融合させることで新たな考え方が生まれることのほうが圧倒的に多い。つまり、さまざまな分野の知識を幅広く持っていることは、それだけ物事を組み合わせる数も多くなり、より可能性が広がるのです。

私の研究でも、天文学ではこういう画像の解析方法が主流だけれど、実は生物学や医学の画像解析の技術が活用できるというケースがあります。リベラルアーツは、より柔軟な思考や幅広い視野を獲得するためにも必要な教育ではないでしょうか。

ICUでは故ドナルド C, ウォース名誉教授のもとで物理を学んでいましたが、成績がトップでもなく、英語が得意でもない私が「アメリカの大学院で天文学を学びたい」と言った時、先生は「どこの地域に行きたい?」と聞いてこられました。てっきり、「アメリカに行って大丈夫か?」と心配されると思っていたのですが、「アメリカは広いから、どの地域に行っても良い大学院は見つけられるので、まず行きたい地方を決めたほうがいい」と、既に行くことを前提に話をしてくれました。先生のその対応が、私の背中を押してくれました。ICUの卒業生は世界中にいますが、海外に行くのは特別なことではないという雰囲気は当時からありました。ICUに通っていなければ、おそらく私もアメリカの大学院に行こうとは思わなかったはずです。

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人種や国籍を超える天文学のコミュニティ

今、私が関わっているTMTプロジェクトは、日本とアメリカ、カナダ、中国、インドの5カ国の共同で進められています。天文学という一つの大きなコミュニティに世界中の研究者が集まり、各国が協力することで、これからの天文学は発展します。そもそも宇宙という大きなスケールを扱っていることもあり、国籍や人種の壁はあまり感じませんが、それでも国によって考え方などは異なります。世界各国の人たちと仕事をする上で、柔軟であることはとても重要です。幸い私は「これはこうでなければいけない」とは考えないほうですが、これから世界を舞台に活躍していく若い人には、柔軟な思考を身につけてほしいと思います。その上で、主張すべきことはする積極性も獲得してほしい。日本人はまだまだ世界の若者と比べたらおとなしいですから。

研究をしていれば、挫折しそうになることもあります。重要なのは、向かっている方向が間違っていないかどうか、時々立ち止まって考えることです。壁にぶつかった時、乗り越える力があればそのまま進めばよいのですが、そうでなければ横にそれても構わないのです。回り道をしている間に、「あれ、こっちのほうが面白いな」という発見もある。実は研究には、そういう場面が多々あります。

これまでの私の人生を振り返ってみると、その時々に興味があるものに関わっていたら、いつの間にか今の自分になっていたという気がします。そういう意味では幸運だったと思いますが、幸運は、自分でつかまなければ得られません。そのためには、目の前にあるものがチャンスなのかどうかを見極める必要がありますが、チャンスは大抵リスクをともなうものです。私の場合、海外の大学院に行く、新しい望遠鏡をつくるために海外の天文台に行くことなどがそれにあたります。チャンスを見極め、つかんだら、それをものにする能力も必要です。人は一生の間に何度かチャンスが巡ってきます。ぜひ、皆さんもチャンスをつかみ、幸運を手にしてもらいたいと思います。

Profile

関口和寛(せきぐち・かずひろ)
国立天文台 光赤外研究部 教授/台長特別補佐

1981年 教養学部理学科(当時)卒業

大阪市生まれ。1986年、ニューメキシコ州立大学天文学部で博士課程修了(Ph.D. in Astronomy & Physics)。1987年から南アフリカ天文台研究員。1994年から国立天文台大型光学赤外線望遠鏡計画推進部助教授。1997年から国立天文台ハワイ観測所助教授。その後、2007年から現職、国際連携室長としてアルマ望遠鏡の建設に関わり、2011年から台長特別補佐、現在はハワイ島で進行中のTMTプロジェクトを担当する。専門分野は観測天文学。

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