Every Day is “Global” at ICU.

-日常に息づくICUの「グローバル」-

Global ICU

卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

北崎 裕 
株式会社自遊人 宿泊事業担当 総料理長 フードクリエイター
1996年 人文科学科(当時)卒業

地域の歴史、文化を料理に織り込む
ICUのリベラルアーツが、そうした思考をもたらした

写真提供:株式会社自遊人

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目に見えるものだけが全てではない

現在、株式会社自遊人が運営する「里山十帖」「松本十帖」などの宿泊施設で料理を担当しています。京都と金沢での料理人経験を経て、新潟の山中にある「里山十帖」に来たのが2014年。その数年後、施設が数か所増え、各施設に料理長を置くようになり、彼らをサポートしたり各施設をつなげたりする役割として総料理長を務めることになりました。ただ料理を作るだけでなく、地域のことを理解し、発信・表現していく存在として「フードクリエイター」の肩書も設けています。

私たちが料理を作る上で目を向けるのは、地域の食材はもちろん、気候や風土、歴史、文化など。それらが折り重なって形成された地域の食文化への敬意や感動を自分なりに昇華し、新しいものに変換していきたいと努めています。例えば、2020年の「松本十帖」開設の際には、地元の方々にお話を伺いながら、地域の料理や風土など「見える」部分をつぶさに確認しました。一方、昔からの住民の方には「見えない」部分も一部ではあり、私たちのような外部からの目線を織り交ぜながら、どのような料理を作ればよいかを考えました。

また大切にしている視点は、私たち料理人は「最後の一手」を担っている存在であり、料理の味は、私たちが手掛けるずいぶん前から決まってきている、ということです。魚であれば育っている時点、野菜なら種取りの時点。お客様が料理を口にする時に、そうした「見えない」背景に思いを馳せ、楽しんでもらいたいと考えており、私自身もそこに面白さを感じています。

料理の世界を志したきっかけは、大学時代の多様な学び、特に卒業論文で日本の美術史を研究する中で、目に「見えるもの」と「見えないもの」があると感じ、そこに関心を持ったことでした。「見えないもの」とは、美術でいうと技術や思想などを指します。その部分をあぶり出すために「言葉」を用いる人もいますが、私は「手を動かす」ことで探求したいと考えました。最初は陶芸の道に進もうと思いましたが、「陶芸で作る器は料理を入れるものだから、本質に近づくには料理を先に習った方が良いのではないか」と考え、料理人になる決意をしたのです。

ICU卒業後は、京都の懐石料理のお店で修行をしました。大変厳しい環境で、数日で辞めていく新人も多数。そうした中、業界未経験の私が挫折せずに続けられたのは、ICUで培った「いま起きていること、目に見えていることだけが全てではない」という考えがあったからです。目の前の厳しい現実も「長い人生でほんの一時のこと」と捉え、乗り越えられました。その後、料理自体により魅力を感じるようになり、現在に至ります。


一つ一つの学びが、今の自分のベースに

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ICUに興味を抱いたのは、高校時代に所属していた部活動にICUに進学した先輩がいて、パンフレットを見せてもらったことがきっかけでした。「国際」を冠した大学名に惹かれるとともに、文理の枠にとらわれず幅広く学ぶリベラルアーツ教育にカルチャーショックのような感覚を覚えたのです。もともと「学問のことを詳しく知らない高校生が、何を基準に学部を選べばよいのか」という疑問も抱いていたため、ICUの教育システムは大変魅力的に感じました。

入学して実際に学んでみると、本当に期待通りの学習環境でした。特に英語のカリキュラムは非常に充実していましたし、学生が主体的に学ぶ風土、それを強力にバックアップする教授陣と大学の姿勢を実感しました。そして、先述した「目に見えるものだけが全てではない」という考えは、世間から少し離れた森の中のキャンパスで多彩な学問に触れ、さまざまなことに思いを巡らせたからこそ得られた価値観です。一つ一つの学びが、自分のベースとなる考えを育んでくれました。

例えば、シェイクスピアの文献講読の授業で学んだのは、古典の中には現代と同じ言葉でありながら、使い方が全く異なるものがあるということ。「見ようとしないと見えない世界」が確かに存在することを認識しました。科学史の授業では、一時は正しいとされていた事実が何十年後か先には否定されるという現象が科学の世界では往々にしてあることを学び、「今あるものが全てではない」という視点を与えてくれました。

また、近年盛んにうたわれている「サスティナブルディベロップメント」という言葉は、私が大学生の頃にICUの授業で初めて聞いた記憶があります。その授業で耳にした農薬や化学物質などの話が、現在の仕事で農家さんと話す中で話題に上ることもあり、ICUで学んだあらゆることが今に生きていると感じます。

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自分の信じた道を突き進む

卒業から時を経て強く実感するのが、「ICUのリベラルアーツが今の私を形成した」ということ。好奇心や興味のおもむくままに学んだ内容が、私の中に集約され、自分を形づくっているのだと折に触れて気づき、驚いています。

それは料理人としての考え方にも大きな影響を与えています。今、料理人は料理だけをしていればよいという時代ではないと感じます。昔は、海外で修行してきた料理人は、皆が知らないことを知っている存在として一目置かれていましたが、高度に情報化が進んだ現代ではお客様の方が詳しい場合も少なくありません。だとすると、さまざまなことに関心を持ち、それをお皿の上で表現しつつ、見えない部分も含めてお客様と語れることが重要だと考えます。料理人は基本的に技術を用いる職業ですので、当然ながら技術の鍛錬は常に必要です。ただ、一定以上の料理を作れるようになった先には、「どのような視点で世の中を見ているか」ということが大切になります。料理人にもリベラルアーツの複眼的視野や感覚が求められているのです。

これから大学に進学する方々にお伝えしたいのは、自分の思い、やりたいことに向き合える時間は大学時代だからこそ得られるのだということ。社会に出れば、経験を重ねて専門分野を極めることはできても、批判的な視点で物事を見たり、歩みを止めて深く考えたりできる時間は少なくなります。ぜひ、大学の4年間で多様な学問や人に触れ、自分の根本となる覚悟に向き合う時間を過ごしてください。ICUにはそのための環境が整っています。

Profile

北崎 裕
株式会社自遊人 宿泊事業担当 総料理長 フードクリエイター

1996年 人文科学科(当時)卒業

ICU卒業後、京懐石の名店「吉泉」での修行を経て、くずし割烹「枝魯枝迅」の系列店にて料理長に。その後、故郷石川県で自身の店を開業。2014年、株式会社自遊人に入社。現在、新潟県の「里山十帖」と長野県の「松本十帖」を行き来しながら、総料理長、フードクリエイターとして活動。

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