Every Day is “Global” at ICU.

-日常に息づくICUの「グローバル」-

Global ICU

卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

東梅 貞義 
公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン 事務局長
1990年 理学科(当時)卒業

複雑な環境問題に向き合う
クリティカル・シンキングとリベラルアーツがその基礎を築いた

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"Together Possible" 一緒なら達成できる

環境保全活動を行う国際的なネットワークであるWWF。その一翼を担うWWFジャパンで事務局長を務めています。WWFは「人と自然が調和して生きられる未来」を作ることをミッションとして、2つの大きな目標を掲げています。1つは地球温暖化を防ぐために2050年までに脱炭素社会を実現すること。もう1つは、損なわれ続けている生物多様性を2030年までに回復トレンドにのせることです。

これらの目標のもと、WWFは世界各国を舞台に多様な活動を行っています。また、世界が今、何を一緒に目指そうとしているのか、国内の政治家や企業のトップ、市民に伝えることも重要な活動です。そうした中で、大きな目標に向かって事業計画を立て、チームリーダと一緒に実行していくことが事務局長としての私の大きな役割です。

1992年にWWFジャパンに入局し、最初に担当した仕事は湿地帯の保全業務です。湿地帯は、渡り鳥の生息地として重要ですが、急激な減少が問題となっています。任されたのは、世界を飛び回る渡り鳥が、日本のどの場所に、どのくらいの頻度で飛来しているのかといったことを明らかにすること。そして、国際的に湿地を保護する国際条約であるラムサール条約の登録基準を読み込み、基準を満たした日本各地の湿地に関係する自治体や地域の環境団体と対話を積み重ね、その地域にとっての新たな自然の価値を探り出し、広げていくことでした。

2000年からは日中韓の国際湿地保全プロジェクトのリーダーを務めました。中国と韓国の間に、自然に恵まれ、渡り鳥の生息地でもある黄海という海があるのですが、中国や韓国の経済成長に伴い、その自然は急速に失われていったのです。黄海の大切な自然や生物を守るために、中国・韓国におけるNGOのリーダー育成や地方政府の取り組みの支援に注力しました。その後、日中韓だけでなく、世界各国の環境保全活動に関わり、企業との交渉を行ったり、国際会議に参加したりと、多数の貴重な経験を積むことができました。

私が大切にしている言葉に「Together Possible(一緒なら達成できる)」というものがあります。環境問題は複雑で、一つの原因を排除することで解決できるものではありません。例えば、森林減少の主な要因に東南アジア、ミャンマーの森林の天然ゴム農園化が挙げられます。人間の都合でさまざまな種類の木々が生息する豊かな森林を天然ゴム生産のためにゴムの木しか存在しない場所に変えることで、森林減少、そして生物多様性の損失につながるのです。しかし、天然ゴムの生産者が悪いのかというと、そうとは言えません。ミャンマーにはまだ大きな産業がない中で、山間地で生活する住民も天然ゴムを生産することで生計を立てている。そして、天然ゴムの多くは自動車のタイヤを作るために使われており、世界の主要なタイヤメーカーには日本の企業も数社、名を連ねています。こうした状況の中で問題を解決するためには、問題に関わる多様な立場の人が現状と環境・社会課題を知り、共に知恵を出し合って協働して解決していくことが何よりも重要だと考えています。


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一つ一つの学びが、今の自分のベースに

もともと獣医の大学を志望していたのですが受験で失敗し、ICUに進学しました。数ある大学の中でICUを選んだのは、「英語で学ぶ」ことができる点に加えて、生物という自分の興味がある分野をしっかり学べる点に魅力を感じたからです。

ICUに入学して実感したのが、学生の英語レベルの高さ。世界各国の留学生や帰国生、留学経験のある人など、多様な学生が学んでいました。そのような環境に触発され、私もより英語が使えるようになりたいと、オーストラリアに1年間留学。英語力を習得できたのは、ICUで徹底的に学び英語の土台を築いてから、この留学を経験したからだと思います。

生物学専攻で学ぶ中では、実際の生き物を扱った細胞学や遺伝学の実験は特に印象に残っています。実験結果を出すことだけでなく、むしろ実験の過程でしっかりと考察する力を鍛えられた気がしています。現在の仕事でも環境に関するデータを扱う機会が多くありますが、表面上の数字だけを捉えていては、正しい分析はできません。データがどんな目的で、誰によってどんな方法で作られたかによって、導きだされる結論が異なってしまうからです。なので、数字だけでなく、データの生成過程に目を向けることが大変重要なのですが、そうした着眼点の基礎はICUで授業を受けるだけでなく、徹底的に実験を一人一人やグループで行う機会を与えられ、結果の分析も、その結果の意味することも徹底して考え、レポートを作成する訓練をさせてもらった中で養うことができたと思っています。生物学以外にも、ICUのリベラルアーツ教育で幅広く関心を持ち一つの専攻以外の授業を受ける事を奨励され続けた経験が自分の世界を広げ、その後の人生に大きな影響を与えています。

また、ICUは少人数の大学で先生方との距離が近いので、印象深い思い出がいくつもあります。例えば4年次に、就職か大学院進学か進路選択で迷っていた時のこと。強く興味をもっていた環境問題や社会問題を世間に伝える仕事がしたいとマスメディア関係を中心に就職活動をしており、1社から内定をいただいていました。一方で、大学院で環境保全について深く学んでみたいという気持ちもありました。こうした悩みを、生物学の授業でお世話になっていた風間晴子先生(現ICU名誉教授)に相談したのです。「卒業生でも就職後に大学院進学を決める人は多い。ただ、一旦社会人になると、その道を一旦離れて大学院へ進学するのはなかなかハードルが高い。もし今、大学院進学という道が選べるのなら、それはひとつの選択だと思う」。こうした言葉をいただき、自分の気持ちに整理がつきました。すぐさま内定を辞退し、英国エジンバラ大学の修士課程への進学を決意。先生の親身なアドバイスが、結果的に私の人生を大きく方向づけることとなったのです。

ほかにも教育学の授業で教わったベンジャミン・デューク先生(現ICU名誉教授)との交流も強く印象に残っています。当時、ICU近隣の野川公園の敷地内にゴミ焼却場を建設する計画が、明らかに環境や景観を大きく損なう恐れがあるということで、デューク先生と共に反対の署名活動に関わったのです。教授自らが見過ごせないことにしっかりと声を上げる姿が「ICUらしいな」と思いつつ、私自身も環境問題や社会問題への興味がより強くなりました。そして、多くの方と協力し、問題解決に向けて行動した経験は、今の仕事にもつながっています。

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「学生に何を学んでほしいか」をICUの教員は強く意識している

環境問題のような複雑な課題に向き合う上で、ICUのリベラルアーツ教育やクリティカル・シンキングは大きな力になります。多様なステークホルダーを直接取材し、相手の立場へ理解を深めながら対話を重ね、なぜ今まで問題を解決しにくかったのか、誰と誰が協働することで、相当に改善ができるかを見定めて問題解決に取り組む。また、一つの専門領域に特化せず、問題の内容に応じて必要な知識を身に付ける。こうした「ジェネラリスト」としての自分を形成したのは、ICUでの学びが大きく影響していると考えます。

世界の多様な人々と協力しながら仕事ができているのも、ICUの多様性のある環境で学んだ経験が土台になっています。ICUには当時から、欧米だけでなく、中国、韓国、東南アジアなど多様な国・地域の学生が集まっていました。学生時代にこうした環境に身を置いたことが、社会人になってから国籍や言語の異なる人々と協働するハードルを大きく下げてくれたと実感しています。

私は本業の傍ら、2010年からICUで非常勤講師を務めているのですが、周りの先生方を見て気付いたことがあります。それは、学生にどのような学びを提供すべきか、教員が強い意識を持って教育に臨んでいるということ。教員はみな、「学生に何を学んでほしいか」「そのためにはどんな授業や課題が必要か」といったことに思いを傾け、多くの時間を費やして「学び」を設計し授業を行っています。そのことが結果として、ICU生が自ら課題を見いだし、それらを解決する力を身に付け、グローバルな社会へと飛び立つ一助になっているのではないでしょうか。

これから2030年に向かって世界から求められるのは、サスティナブルな社会の実現に貢献できる人材です。しかし、何を学ぶかを決めるのは学生自身。ICUは、幅広い専攻分野の中で学生が能動的に学習・研究内容とその組み合わせを選び、それぞれの目標に合わせて必要な力を身に付けられる、そんな大きな学びを提供してくれる大学です。

Profile

東梅 貞義
公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン 事務局長

1990年 理学科(当時)卒業

ICU卒業後、英国エジンバラ大学の修士課程へ進学し、修士号(Master of Science)を取得。1992年WWFジャパンに入局。日本国内の重要湿地の保全活動、「黄海エコリージョン国際保全プロジェクト」の発足等に携わり、自然保護室長、シニアダイレクターを歴任。アジア太平洋地域23カ国のWWFの自然保護室長を束ねる代表を経て、2020年7月から現職。

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