卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

岡野 豊 
日本電気株式会社(NEC) 環境経営統括部
2000年 教養学部理学科(当時)卒業

収益を生み自然も豊かにする ビジネスを生み出す。 ICUで身につけた対話力を活かし 挑戦を続けていきたい。

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「英語を話せない」から始まった、世界への道

私が環境問題に目覚めたのは、中学・高校までは当たり前のように目にしていた当時住んでいた小田原の自然が、宅地造成などで消えていく様子を目の当たりにしたからです。反対運動も起こっていましたが、そうした声を上げる人たちの多くも、実はその10年ぐらい前に宅地造成で引っ越してきた方たち。「人々の生活が豊かになることも大事。環境保全も大事。両方を大切にしながら解決するにはどうしたらいいのだろう」。大学でこの問いに向き合いたいと考えたのですが、当時は環境学を専門に学べる大学があまりありませんでした。高校の先生に相談したところ、「リベラルアーツ・カレッジのICUならきっと君が求める学びが見つかると思う」とのアドバイスをいただき、ICUへの入学を決めました。

しかし一方で、ICUで学ぶことには大きな不安を抱えていました。実は、中学・高校を通じて英語が大の苦手だったんです。定期テストの成績は平均点を大きく下回るほどでした。私にとって、ICUのクラスメイトたちの多くは当たり前のように英会話ができるように見え、中には「Aha」とネイティブ・スピーカーさながらに相槌を打つ人もいて、入学当初はカルチャーショックに近い衝撃を受けたものでした。そんな私が英語への苦手意識を払拭し、今ではG7やCBD-COP16などのさまざまな国際会議で、環境問題について講演を行えるようになったのは、「ELP(English Language Program、現在のEnglish for Liberal Arts/ELA)」を通して英語で学ぶ力を徹底的に鍛えることができたからです。最初の1学期間は全く話せず、ただ周りの議論を聞いているだけでしたが、英語のシャワーを浴びているうちに2学期目から少しずつ話せるようになりました。授業で取り上げられるトピックスも環境や社会問題に関するものなど幅広く、「英語で考え議論する」ことが次第に楽しくなっていました。私が書いた小論文について先生から「Outstanding!(素晴らしい!)」と言われたことで更に自信が付き、「英語は上手い下手ではない。いかに考えを整理し、論理を構築して相手に伝えるかが重要なんだ」と気付くことができました。この頃の学びが、今も心の支えになっています。

 

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COP16 G7会合での講演

違いを越えて対話する力が、世界を変える

ICUでは、メディアコミュニケーションや公共政策など幅広い分野から環境問題について研究。卒業後は、環境分野の研究が盛んなカリフォルニア大学の修士課程に進学しました。その後はトヨタ自動車、日本電気(NEC)で環境保全活動を推進する事業に携わり、環境アセスメントに関する専門家としてのキャリアを積んできました。NECでは、再生可能エネルギーの活用や、データセンターに不可欠な河川流域の水資源を循環の視点で保全する取り組み、さまざまな企業の事業を持続可能なものへと変革する支援などを行っています。このほかに、さまざまな国際会議に出席し、環境対策、持続可能な社会づくりについての講演も行っています。

こうした活動を通じて感じるのは、環境部署が「環境に配慮したい」というだけでは、企業は変わらないということです。例えば、設計部署の素材選びや物流部署の輸送方法に反映してもらう必要があるとき、設計部署はデザインや機能性を大事にしますし、物流部署は遅延なく安定した輸送を望みます。環境関連の取り組みを進めるためには、それぞれの考え方も深く理解する必要があります。それもそのはず、誰もが異なる目標や背景を持ち、それぞれの使命に対して一生懸命なんです。

そうした異なる考えの壁を乗り越える上で活きているのが、ICUで身に付けた対話力です。国や宗教など思考の土台や背景そのものが異なる多くの学生たちと議論を重ねてきた日々。相手と考えが違うことを問題にするのではなく、「何が理由でその考えを持つようになったのか」を推察し、寄り添いながら対話を進める。ものごとを進めながら多くの人を巻き込んでいく対話力が、環境活動には不可欠だと感じています。

 

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TNFDレポートを制作するために集まった有志メンバー

議論を恐れず、思考を磨ける場がICUにある

そしてもう一つ、環境活動の継続には経済性が不可欠です。どんなによいことをしても、続かなければ世界は変わりません。私はNECで環境事業に従事するかたわら、移住先の岡山県西粟倉村で「経済的に成り立つ環境活動」をいかに構築し広げていくかという挑戦に取り組んでいます。同地で、志を同じくする仲間たちとスタートアップさせた「エーゼロ」という会社組織は、「収益が出れば出るほど、自然が豊かになり、人が幸せになるビジネスをつくる」ことを目指しています。地元企業や農林水産業、自治体と連携しながら、豊かな自然を前提として豊かな社会を築き、経済的にも成立する「未来の里山」を共創したいと考えています。

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この共創を進める上でも重要となるのが、ICUで培った対話力とクリティカル・シンキングです。思い返せばICU在学中は、先生、学生と相手を問わず、たくさん議論をしました。ときにお互いが熱くなるような論争に発展しても、ICUは誰もがそれをあくまで考え方の違いととらえる環境で、気まずくなることはありません。むしろ、思考を戦わせ、深められたという充実感を得られるのです。これからICUで学ぶ皆さんには安心して、先生方にも気後れせずに話しかけてほしいと思います。コテンパンにやられることもありますが、経験を重ねることでクリティカル・シンキングが身に付き、磨かれていきます。しかもそれを英語で培うことができる! その果てに見える自分だけの世界と未来を、ぜひICUで見つけてください。

 

Profile

岡野 豊
日本電気株式会社(NEC) 環境経営統括部

2000年 教養学部理学科(当時)卒業

ICU卒業後、カリフォルニア大学デービス校へ進学し、生態学修士号を取得。帰国後、トヨタ自動車に入社。環境部署に14年間在籍し、世界中の工場の脱炭素、資源循環、水質保全、生物多様性対策、グローバルの環境中長期目標策定に従事。2017年より岡山県西栗倉村のスタートアップ企業の執行役員として自然資本事業部を立上げ、循環型の農林水産システムを構築。現在、NECにてサプライチェーンCO2の削減を始めとした環境戦略の策定と推進を担当。

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