Global Alumni

小坂 順一郎  国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所
シニア・リエゾン・アソシエイト
1994年 教養学部社会科学科(当時)卒業
1996年 大学院行政学研究科(当時) 博士前期課程修了

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最前線で難民を支える"組織の一員として

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の主要な活動は、紛争や迫害によって故郷を追われた難民に対して国際的保護を確保し、難民問題の解決へ向けた国際的な活動を先導かつ調整することにあります。難民の権利と尊厳を守り、すべての人が庇護を求める権利を行使し、安全に庇護を受け、自主的に帰還あるいは庇護国に定住、または第三国に定住できるために努力をしています。UNHCRの支援対象者は、難民、無国籍者、国内避難民や帰還民など、世界中で約6,800万人(2016年末時点)にのぼります。

難民とは、一般的に紛争や人権侵害により他国に逃れ、自国の政府からの保護を受けられない人を指します。自然災害などにより避難を余儀なくされた被災者と異なり、難民は自国政府の支援を受けることはできません。より良い生活を求めて移動する移住労働者と異なり、難民は帰りたい時に祖国に戻ることも、異国で本国大使館の支援を受けることもできません。そのような不安定な立場にある難民を真っ先に保護・支援するのが、国連総会より難民保護の先導・調整を委託されたUNHCRや人道主義に基づき国境を越えて活動する非政府組織(NGO)となります。

自分が所属するUNHCR駐日事務所の渉外部(External Relations Unit)は、日本の政府や民間が持つ資金、人材、物資や知見・技術などの人道支援に関わる資源(Resources)を難民保護と人道支援の現場に有効活用するために、普段からUNHCRの活動状況の報告や現場情報の共有をステークホールダーに対して行い、UNHCRが実施する難民・避難民支援を様々な形で支援してくれるパートナーのネットワークを構築・拡大することが主な目的となっています。現在、自分が注力しているのはNGOや市民社会とのパートナーシップ構築と、より良い難民保護と人道支援環境の改善に向けたアドボカシー(政策提言)活動です。

例えば、紛争予防や平和構築などにおける女性の参画および紛争下での女性の保護・固有のニーズへの対応を求めた安保理決議第1325号に関する国別行動計画を日本政府が策定する際に、難民保護の視点や人道支援におけるジェンダーの主流化が反映されるように市民社会と協働して政策提言に関わりました。日本の開発協力重点方針にも女性の保護やエンパワーメントが重要な要素となりますので、UNHCRが現場で実施している女性・子どもの保護活動をハイライトしていき、UNHCRの事業と日本の援助政策の親和性を示して資金調達活動につなげていきます。

UNHCRとNGOは、グローバルから現場レベルを含めた多層的な、そして人道支援事業だけでなく保護基準の設定から緊急人員派遣までを含めた多面的なパートナーシップを実現してきました。UNHCR駐日事務所はNGOと定期的な協議を行う「日本UNHCR・NGO評議会(J-FUN)」の事務局を担当しており、現場での連携構築のために情報交換や事業実施能力と環境の向上を促進するために活動をしています。最近では危険地における安全管理能力向上のために、NGOの皆さんと一緒に安全基準のガイドライン作成、UNHCR緊急事態対応地域センター(eCentre)による研修の実施に関わってきました。

このような東京ベースの仕事以外にも、緊急派遣チーム(Emergency Response Team - ERT)要員として2016年9月から12月にかけてウガンダ北部のユンベに南スーダン難民対応のために緊急派遣されました。ERTとは世界各地のUNHCR事務所から職員が志願し、本部の緊急対応課によって選抜されます。選抜されると職員の適性を確認する訓練を受け、召集がかかれば72時間以内に緊急派遣できる状態を維持する必要があります。現地では、日報・週報・指標に関する報告書を作成し、UNHCRが現場で実施している保護支援活動を発信したり、UNHCRが実施するNGOや政府機関との調整会合の管理、支援関係者のネットワーク構築、ドナー国による視察やメディア対応、そして難民を一時滞在センターから居住地に移送し生活支援をする役割を果たしました。

UNHCRの醍醐味とは、難民がいる最前線に難民と共にあり、パートナーや難民と一緒に問題解決のための枠組みを構築していくことにあります。人を「助ける」という行為は明快のようでいて、複雑です。「どこの、誰を、いつ、どれだけ、どのように支援するか」について認識と行動を共有するには、誠実な努力と対話が必要となります。現場では資金、人材、インフラ、治安情勢、多様なアクターとの連携など、様々な不確定要素と制約が絡み合っています。正解が分からないなか、いかに効率的で効果的な支援を、限られたリソース(資金・人材・時間など)のなかから実現するかが、人道支援の醍醐味といえます。

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今につながる、リベラルアーツの考え方


ICUを知ったのは、母や叔母など近親者にICUの卒業生が多かったことがきっかけでした。大学を見学に訪れて、開放的な雰囲気にとても惹かれたのを覚えています。

ICU時代に学んだことは、時間の経過とともに、その重要性を増しています。学部・大学院時代にお世話になった最上敏樹先生の国際法と国際機構論のおかげで主権国家と人権の関係や国連を始めとする国際機構の「いろは」を叩き込まれました。当時は想像もつきませんでしたが、あの頃に培われた知識の土台のおかげで、現在の難民保護と人道支援を取り巻く環境に関してより深く多角的に理解できていると思います。また学問とは知識の集積ではなくこの世界を理解しより良い方向に変えるための道標であることを、そのためにも「知識に誠実であること」を先生の授業やゼミを通して(冷汗とともに)学びました。

ICU大学院時代の松澤弘陽先生の授業でも大変貴重な経験をしました。先生は講義を通じて「知ったかぶりをしない」自分の身の丈からの議論、知識の基礎練習の重要性、肌感覚・日常感覚を信じて議論することの大切さを教えてくれました。これはつまり、自分の経験や感覚に向かい合い言葉にして鍛えていけば、それが普遍的な議論にもつながりうるという体験でした。このコモン・センスを大切にするという感覚は、助成国政府、現地当局、国連機関、NGOそして難民と対話するときに心がけています。理解できていない高次元な理論や押付けの建前だけで議論を展開するのではなく、わかるところから対話を始めていくことが大事なのです。

思い返すと、リベラルアーツは私には非常によく合っていたと思います。国際支援の分野では、往々にして「魚を与えるのではなく、その捕まえ方を教える」ことが求められますが、リベラルアーツにも共通するところがあります。知識を受け取るのではなく、いかにその知識にたどり着くかという手段を教えてもらったと感じています。

UNHCRは、スペシャリストよりもジェネラリストが求められる組織です。例えば難民の女性や子どもについて考えるとき、難民登録、性的暴力の防止と対応、保健、水・衛生、教育、物資や食糧の配給、難民コミュニティの動員など多岐に渡る配慮を行う必要があります。もちろん高い専門知識を要する局面もありますが、どれか一つの分野に頼っていくわけにはいきません。普段から自分の視野を広くしておくことが大切です。そういう意味で、ICUで「知識の広げ方」や「知識にたどり着く術」を学ぶことができた経験は非常に大きいですね。

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ICUも国連機関も、見られているのは属性より行動


「属性より行動を評価する文化」が脈々と受け継がれているのが、ICUの特徴でもあります。どこの出身でどこの高校から進学してきたということは一切関係なく、何を議論してどう行動するかということで、その人の価値が決まるという雰囲気を強く感じました。それは国連機関にも同様の空気が流れています。問われるのは出身大学や取得学位ではありません。UNHCRであれば、いかに難民の中に入って人々のニーズをくみ上げられるか、同僚と何を話し合ってどのような支援に結びつけられるかということなのです。国連機関にはICUの卒業生も多く勤務していますが、長く一緒に勤務した職員が実は卒業生だったと後から知ることもよくある話です。

私は、国連職員というのは手段であって目的ではないと考えています。目指すこと自体を否定するつもりはありませんが、「女性の社会参加を促進したい」、「子供の精神衛生を改善したい」「情報技術を活用して貧困問題に取り組みたい」といった想いが先に立つべきで、その想いを成し遂げるためには企業やNGOなどに所属した方がいい場合もあるのです。またどこに所属するという視点よりも、どのようなツールをもって社会にかかわり、よい方向に変えて生きたいか考えることのほうが大切だと思います。海外の職員を見ていると、NGOから入ってきた人、放浪生活の末にたどり着いた人、アカデミックな分野から移ってきた人など所属していた組織は本当に多様ですが、共通するのは「この人道危機に自分の知識と技術がどのように貢献できるか」という姿勢でした。

どのような職員にも共通している要素が二つあります。一つは仲間と信頼関係を築けること。現場での支援は常にチームでの行動です。時に極限の状況に追い込まれることもある中で、集団で活動ができる、また周りの仕事をいとわずに受け入れられる力は大変重要です。そしてもう一つ必ず持ち合わせていてほしいのは、支援をする相手に共感する心です。いきいきと活動するためには、国連職員としてただ業務に従事しているだけでなく、難民たちに共感し、目的意識を持つことが不可欠なのです。

そのためにも、学生時代には自分のコンフォートゾーンを離れて外の世界に関心を持ってほしいと思います。ICUには、自分以外のことにも視野を広げ、議論を通じて他者を知れる環境が整っています。時に自分の常識が通じなかったり、人を傷つけてしまったりすることもあるかもしれません。それでもたくさんの人との対話を通じて、まずは他者を知ることが重要なステップなのだということに気付いてほしいですね。

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<プロフィール>

Kosaka

1994年 教養学部社会科学科(当時)卒業

1996年 大学院行政学研究科(当時) 博士前期課程修了

教養学部社会学科から大学院行政学研究科へ進学。博士前期課程修了後、1997年からロンドン大学国際関係学部にて欧州統合について研究。UNHCRには2006年から所属し、主に外部との渉外部門を担当。その他、2011年3月には東日本大震災対応で国際災害評価調整チーム(UNDAC)やジャパンプラットフォームに短期出向、近年では緊急対応チーム(ERT)の一員として南スーダンの難民支援のためウガンダに派遣されるなど、現地での活動も行う。