卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

石田 由香理 
NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)
2014年3月ICU教養学部アーツ・サイエンス学科卒業

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本学同窓生で現在NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)で活躍する石田由香理(2014年3月卒業)さんが、職業的に自立し視覚障害者の文化の向上と福祉の増進に寄与しようとしている人に与えられる、社会福祉法人視覚障害者支援総合センターの第14回サフラン賞を受賞しました。本学同窓生のサフラン賞受賞は、第12回の堀内佳美(2007年3月卒業)さん、第13回の二羽泰子(2003年3月卒業)さんに続き、3年連続です。石田さんにサフラン賞を受賞することになった、これまでの活動とその活動に生きた本学の教育などについて話を伺いました。

フィリピンの視覚障害者教育を改善したい

ICU卒業後、2014年月からイギリスのサセックス大学大学院博士前期課程で開発学について研究を行いました。その間、視覚障害者としては初めて、外務省主催のNGOインターン・プログラム(運営:公益社団法人青年海外協力協会)に採用され、フィリピンのNGOにも勤務しました。そして現在は、NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)職員として、フィリピン国立盲学校(マニラ)の寮を修繕し、盲学生の移動手段としてスクールバスを届けるプロジェクトを推進しています。

途上国における教育支援に興味を持つようになったのは、大学入学の頃です。世界には環境や経済的な理由で学びたくても学べない人がたくさんいます。私は幸運にも、盲学校の先生や点訳ボランティアの方々の支援があり、何とか大学へ入学することができたので、今度は私が他の人を支援したいと思うようになりました。

そして、この思いをさらに強くしたのが、ICU入学後に参加したフリー・ザ・チルドレン・ジャパンのフィリピン・スタディーツアーです。途上国の現状を深く知りたいと思い、1年次の春休みに参加しました。ツアー中に現地の方々に活動の感想を伝える機会があり、私が英語で話したところ、「日本人で目の見えない私がどうして英語を話す事ができるのか」と、非常に驚かれました。フィリピンでは、視覚障害者への教育が十分になされていません。小学校への進学率も非常に低く、健常者は96%ですが、視覚障害者は5%程度という状況です。このような状況なので、視覚障害者が日本から来て、さらに外国語である英語を話した事が、現地の人たちにはとても驚きだったようです。

この経験から、私がこれまでどのように学んできたかをフィリピンの人に伝えれば、フィリピンの視覚障害者の方が置かれた環境を改善できるのではないか、日本の生活では周囲の人に迷惑をかけないように生きてきた私が、この国であれば人のために何かできることがあるのではないかと強く思い、その後、毎年フィリピンを訪れるようになりました。

2年次の夏には、国際サービス・ラーニングのプログラムに参加して、シリマン大学(Silliman University、フィリピン)に留学し、その後もマニラのNGOで活動したり、ICUを1年間休学して、主にマニラの国立盲学校でインターンとして活動したりしていました。

活動内容は、日本で自分が受けてきた視覚障害者向けの教育方法を伝えることです。ただ、改善したいことはたくさんあるけれど、何をどうすればよいかわからず、もどかしい気持ちの中で活動を行っていたのが実情でした。さらに活動を続けるうちに、どんどんその気持ちは高まり、もっと専門的な知識を身に付けたいという思いや、他国の教育開発の事例を学びたいと考えるようになり、大学院への進学を決めました。日本、フィリピンなども含めて大学院への進学を考えた結果、せっかく開発学を学ぶならその道の進んだ研究がされている大学で学びたいと思い、開発・教育学で有名なサセックス大学に進学することにしました。

英語力、プレゼンテーション力、思考力

ICUでの学びは、現在の活動に非常に役に立っていると思っています。
まず、1年次に履修したELP(現リベラルアーツ英語プログラム:ELA の前身)です。現在のように英語でコミュニケーションができるようになったのは、ELPのおかげです。大学に入学するまでパスポートも持った事がなかった私が、1年間後には、フィリピンのスタディーツアーに参加して、通訳なしで現地の方々と話せるまでになりました。さらにこのことがきっかけとなり現在の活動に繋がっているので、本当に感謝しています。

英語以外では、授業中にプレゼンテーションをたくさん課されたことと、人文科学、社会科学、自然科学からなる、さまざまな科目を学べたことがよかったと思います。

ICU入学当時は作った原稿をもとにプレゼンテーションしていましたが、徐々に慣れ、場の雰囲気や伝える相手にあわせて話せるようになってきました。フィリピンでの活動やイギリスの大学院、そして現在のNPOの活動でもプレゼンテーションをする機会が多々あります。大きな講演会に呼ばれて活動内容を伝えたり、団体への寄付者の方への説明、中学や高校の国際理解教育の一環として生徒の前で話す事もあります。伝える内容は同じであっても、相手が異なるのであれば、それに応じた話し方が必要で、こうした対応力はICU時代に数多くのプレゼンテーションをこなして養った力が基礎になっていると思います。

また、ICUのリベラルアーツの中で色々な科目を履修していると、教育学でも歴史学でも貧困と教育という同じトピックを取り上げることがあります。そうすると、学問的なアプローチ方法や先進国と開発途上国による見方の違いなどに触れる機会が多々あります。こうした環境で日々学ぶうちに、自分が最初に思ったことだけで決め付けて行動したりせずに、常に色々な視点で思考する習慣を身に付けること事ができたと思っています。

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同じ境遇の人の将来を開くことは、私を支えてくれた方々への恩返し

私の周りには、高校生の頃から応援してくれ、無償でサポートしてくれた盲学校の先生や点訳ボランティアの方々がいました。こうした人たちへ私なりのお返しは、自分のやりたい事を全力でやる事だと思い、日々活動しています。

フィリピンの視覚障害者の中には、能力はあるけど学校に行けない、就職先がないなどの理由で自分の能力を生かす機会がない人がたくさんいます。もし、私がフィリピンに生まれていたら、それは自分の運命だったと思います。今、私は幸運にもこうした活動の機会を掴んでいるので、せめてフィリピンの視覚障害者の方が努力したら報われる社会にしたいと思っています。

また、過去に日本においても、能力はあるのに、視覚障害者であるために国際協力の道に進む事ができなかった方々がいます。例えば自分の恩師もその一人です。なので、私が国際協力の道に進み活動を続けることで、少しずつ、障がいのある人であっても国際協力の職に就くことが当たり前である環境に近づけていけたらと思っています。

漠然と日本や世界をよくしたいと考えているのなら、行動することによってその道がはっきりすると思っています。ぜひ行動の一歩を踏み出してみてください。何かが変わるはずです。

Profile

石田 由香理

国立大学法人 筑波大学付属視覚特別支援学校卒業

2009年4月、ICU教養学部アーツ・サイエンス学科に入学。1年次に海外英語研修プログラム(SEA: Study Abroad Program)に参加し、初めての海外を経験する。1年次の春休みには、フィリピンのスタディーツアーに参加。現地の視覚障害者教育の現状を知る。その後、複数回フィリピンを訪れ、環境の改善を目指した活動を実施。

ICU卒業後は、専門的な知識を身に付けるため、教育学・開発学の研究で名高いサセックス大学大学院に進学。修士号を取得する。

現在は、NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)で、フィリピンの国立盲学校内の寮を修繕し、学生たちにスクールバスを届けることを目指し、活動中。