SAKE Generation株式会社 代表取締役
2000年 社会科学科(当時)卒業
誇れる日本文化を次世代へ
ビジネスコンペから生まれた起業の軌跡
「一杯の出会いから、日本酒の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」という強い想いから、2020年に私たちはプレミアム日本酒ブランド「ICHID°(いちど)」をスタートさせました。60以上の国々でのテイスティングを通じ、幅広い世代や文化に受け入れられるお酒を追求しました。
このブランドの原点は、3年間のシカゴ大学のエグゼクティブMBAコースに留学した時に始まります。そのコースで、世界的なビジネスコンペティションへの参加が可能であり、その場で日本酒を活用したアイディアが誕生したのです。
高校から大学時代に様々な国を訪れた経験から、私は「日本の優れたものを世界に広め、誇りある日本文化を次の世代に残したい」という願いを持っていました。また、当時飲料メーカーで働いていた経験から、「日本酒に秘められた魅力をもっと掘り起こせるのではないか」と考えたのです。この考えをクラスメイトに伝えたところ、シャンパン業界で経験を持つベルギー人や、アメリカ人、ベトナム人、そして日本人など多国籍の仲間が賛同しました。私たちは6人のチームとなり、市場調査やテイスティングを通してたどり着いたのは、「スパークリング日本酒」の企画でした。
そのビジネスコンペティションには、香港キャンパスから50チーム以上が参加していました。その中から私たち2チームが勝ち残り、シカゴで行われた決勝に進出。優勝は逃しましたが、教授や審査員から高い評価を得て、そのまま起業に至ることとなりました。商品化にあたり、日本国内の数十の酒蔵にアプローチし、最終的に福島県の酒蔵との協力体制を構築しました。コロナ禍の影響がありましたが、無事に日本とアメリカでの販売をスタートすることができました。
私たちの大切な信念は、世界中の人々に日本酒の価値を知り、体験し、楽しんでほしいということです。そのため、料理とのペアリングディナーショーを開催したり、アメリカの大学と協力してお酒について学ぶコースを展開したりと、多岐にわたる活動に挑戦しています。この取り組みを通じて、人々との繋がりやコミュニティが広がることに大きな充実感を覚えています。まだまだ成し遂げるべきことは山積みですが、日本酒を含む日本の食文化の素晴らしさを全米に伝えたいという使命感を持ち続けています。

ICU時代の自由な探究と挑戦
高校時代、スウェーデンでの1年間の留学が私の海外への強い関心を芽生えさせました。その後、大学で国際的な環境で学ぶことを熱望し、その夢を実現するためにICUに進学しました。そこでは語学や国際的な学びに没頭し、休暇ごとに海外へ飛び出していました。
ICUでのリベラルアーツ教育の中で、私が新たに魅了されたのは経済と金融関係の分野でした。特に、豊富な実務経験を持つ高倉信昭教授(当時)の授業は非常に興味深く、卒業論文も先生の指導を受けて執筆しました。また、ICUではアートに関するクラスも充実しており、その授業に没頭しました。アート作品が生まれた時代背景や作家の人物像に触れると、新たな視点が開けることを知り、さらなる理解を深めるためにはロサンゼルスまで足を運びました。アート鑑賞は今でも私の大切な趣味であり、ICUでの学びが私の考え方に大きな影響を与えたと感じています。
興味の赴くままに挑戦し続けたICUでの4年間を経て、卒業後は証券会社に就職しました。その後、育児と並行しながら複数の企業で経験を積み、最終的に飲料メーカーへと転職しました。この間に公認会計士の資格を取得し、GMAT(海外でビジネスを学ぶためのテスト)も受験しました。育児が一段落した後、自分のビジネスにおける方向性を探るために、シカゴ大学でエクゼクティブMBAの留学を決意しました。そこでの経験や出会いが、私の人生に大きな影響を与えることとなりました。

自分の「得意」と「モチベーション」が重なる旅路を見つけよう
私の大学時代は多岐にわたる学びの中で、何よりも価値あるものはICUで育んだ人間関係です。キャンパスの芝生で、軽快なトークに花を咲かせていた仲間たちとのひと時は、今も心に残る大切な思い出です。彼らとは今でも交流があり、何事にも相談できるかけがえのない存在です。仲間たちとICHID°の酒を楽しむ時間は、特に嬉しい瞬間です。
ビジネスの場でも、ICU仲間との強固な結びつきを実感しています。最近では、ニューヨークでの「ICHID°」のプロモーション活動が増えており、ICUの卒業生たちが同窓の情をもって協力してくれています。ICUの人間関係は非常にオープンであり、それが私にとって大切なものであることが、アメリカでの人間関係構築にも役立っています。
これからICUで学ぼうとしている皆さんへのメッセージとして、豊かな人生を送るために大切なことは、「自分自身を理解すること」と「周囲の環境を理解すること」だと考えます。自分自身が何を望んでいるのか、自分の強みや特技は何かを理解すること。また、身の周りがどんな環境にあるのか、その環境が自分にどのような影響を与えるのかを意識すること。このような理解を通じて、「得意」と「モチベーション」が重なる領域を見つける手助けになればと願っています。
そのために、異なる環境に身を置いたり、異なる視点を持つ人々と議論したりすることは非常に有益です。私自身もそのような経験を通じて、自分の好みや能力、得意なことと苦手なことを見極めてきました。この意味で、ICUは自己理解のための最良の舞台ではないでしょうか。国際的な経験の機会が豊富であり、浅はかでない人間関係の中で真剣に議論を交わす仲間がいる。このような環境の中で大学生活を送れたことに、心から感謝しています。
Profile
島崎 かおり
SAKE Generation株式会社 代表取締役
2000年 社会科学科(当時)卒業
ICU卒業後、野村證券株式会社に入社。クレディ・スイス証券株式会社などを経て、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社に入社。同社在籍中にシカゴ大学エグゼクティブMBAコースに留学。卒業課題のビジネスコンペティションに多国籍の6人チームで挑み、決勝進出。修了後の2019年にSAKE Generation株式会社を設立し、酒類販売業免許を取得。プレミアム日本酒ブランド「ICHID°」を立ち上げ、日本、アメリカを皮切りにシンガポール、イギリス他グローバルに展開している。
