卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

菅尾 友 
オペラ演出家 2002年3月ICU教養学部人文科学科(当時)卒業

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ICUでの学生生活が、自分を今の道に導いた

今は、オペラの演出の仕事をしています。演出というのは公演全体の方向性を決める役割です。指揮者、装置デザイナー、照明デザイナー、衣裳デザイナー、映像デザイナー、振付家、舞台監督、ドラマトゥルクらと相談をしながら、コンセプトやビジュアルなどを決めていき、歌手やダンサーなど、出演者の皆さんと共に、その作品・コンセプトに相応しい演技、歌い方を考えながら、稽古を通じて全体を形作っていきます。

この道に進めたのは、ICUでの学生生活があったからだと思っています。中学生の頃から、オペラを演出したいと思っていましたが、どう実現させたらよいのか、具体的にわかっていたわけではありませんでした。中学ではバレーボール、サッカー、そして高校ではアメリカンフットボール、ICU入学後も、最初はアメリカンフットボール部に所属していました。

そんなある日、ELP*のセクションメイトに「大学で、オペラの演出をしてみたい」と話したら、「面白そう。やってみようよ」と、すぐに応えてくれて、本当にうれしかったのを今でも鮮明に覚えています。自分自身もどうやってオペラを演出するのかわからないし、ICUは歌の専門家がいる大学でもありません。それにも関わらず、「やってみたい」という人が徐々に増え、スタッフやオーケストラも集まり、当時いらした金澤正剛先生(名誉教授、音楽学)が顧問を務めてくださいました。

さらに、ICUの劇団黄河砂や照明委員会の学生も協力してくれ、人生初のオペラ演出と指揮を手掛けた「魔笛」の公演を実現させることができました。何もない、何も知らないところから一緒にオペラを作っていこうと集まってくれた、素晴らしい仲間に出会えたことが何よりも幸せでした。

そしてその後も、在学中は1年に1、2回は学内外で舞台を演出し、それと同時に様々な演出家の下で助手を務めさせていただく機会も得られました。それらがチャンスにつながり、卒業後もこの世界へと進むことができました。

クリティカルシンキングが、演出の幅を広げる

今は、日本や海外などでもオペラの演出に携わっていますが、自分の根幹にあるのは、より多くの人にオペラの楽しさを伝えたいという思いです。自分はこう感じる、こう見たい、と思う舞台を演出しながら、新しいオペラ作品を創るために、台本を書いたりもしています

オペラは、オーケストラ、歌手、デザイナーなど、多くのアーティストがそれぞれの力を結集して一つのものを作るので、素晴らしくないわけがないんです。その素晴らしい個性の集まりをどうまとめて舞台上の表現へと昇華するか、そこが演出家の力を試される部分です。オペラの楽譜には、壮大なドラマが描かれています。それを自分なりに読み込んで解釈し、さまざまな要素を導き出して、舞台という3次元の世界に具現化していく。この時に必要となる「自分なりに解釈する力」は、ICUのクリティカルシンキングで養われたのだと思います。

確か、ICUに入学してすぐのオリエンテーションだったと思いますが、ある教員の方が「高校と大学は違います。何が違うか。それは先生の言うことが絶対ではなく、鵜呑みにしてはいけないということです」ということを仰ったのを聞き、衝撃を受けました。その後、履修したELP*や様々な授業で、自分はどう考えるのか、それはなぜなのかを徹底的に問われ続ける中で、クリティカルシンキングを叩き込まれたと思います。

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挑戦を後押しする場、それがICU

ICUでの学生生活を振り返ると、友人たちはみんな、周りに流されることのない、本当に個性が豊かなユニークな人たちばかりでした。これがやりたいというエネルギーを持つ人ばかりの環境だからこそ、自分も何かをやり遂げよう、自分も何かできるという気持ちになるんだと思います。自分も「オペラの演出をしたい」ということを友人に話す事ができた、そして実現までこぎつけることができたのは、このICUの自由な環境があったからかもしれません。

ICUは何事に挑戦するにも最適な環境だと思います。周りの友人、教員の方々も、自分が本当にやりたいことに対しては、「No!」といわずに応援してくれます。これから受験を控えているみなさん、そしてICUを目指しているみなさん、自分がそうであったように、ぜひICUに入学して自分の可能性を広げてみてください。

*ELP:English Learning Program、2012年から現ELA: English for Liberal Arts Programに変更。授業は、1クラス20人以下の少人数で行われ、英語力を向上させると同時に、ICUで学ぶための思考力とスキルを養う英語プログラム。

Profile

菅尾 友

1979年北海道生まれ。4歳からヴァイオリンを始め、幼少時代から多くのオペラや芝居に触れる。高校時代、アメリカ・ミシガンへの1年間の留学を経て、1998年4月に国際基督教大学教養学部人文学科(当時)に入学。

入学1年後には、初のオペラ演出作品「魔笛」(モーツァルト作曲)の公演を成功させ、その後、精力的に演劇・オペラの演出を行う。在学中に蜷川幸雄氏の演出助手を務めるなど、活動の幅を広げ、卒業後の2004年から2008年まで新国立劇場演出スタッフとして活動。2008年から2012年までベルリン・コーミッシェ・オーパーの演出スタッフとして活動し、現在は日本、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、スイス、チェコなど世界各地で活躍している。2008年文化庁新進芸術家海外留学制度派遣生、2009年リヒャルト・ヴァーグナー国際財団奨学生、2013年五島記念文化賞新人賞受賞。

代表作:
『子どもと魔法』(ラヴェル作曲。2011年・ケルン歌劇場)
『フィガロの結婚』(モーツァルト作曲。2012年・日生劇場開場50周年記念公演)
『ロビン・フッド』(シュヴェマー作曲。2014年・チューリヒ歌劇場)
『ジュリアス・シーザー』(ヘンデル作曲。2015年・東京ニ期会)