卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

片山 有紗 
for her.株式会社 取締役社長
2013年9月 教養学部卒業(メジャー:メディア・コミュニケーション・文化、マイナー:日本研究)

ICUで培った視野の広さと社会貢献への精神を力に
ウェルネスブランド「for her.」の挑戦

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ICUでの経験を通して強くなった、社会貢献への思い

生後3ヶ月からアメリカで育ち、15歳で日本に戻った私にとって、最初の大きな壁は日本語でした。日本語補習校に通っていなかったこともあり、日本語の読み書きには自信が持てずにいました。社会に出る前にしっかり日本語力も身に付けたく、日本語教育プログラムに定評のあったICUへの進学を決めたのです。メジャーに「メディア・コミュニケーション・文化」(MCC)、マイナーに日本研究を選択したのは、メディアに関心があり、日本語や日本の文化も深く学びたいという自然な流れでした。

学業面では、日英バイリンガルの環境で幅広い分野を学ぶことができました。しかし、学業以上に私がICUで得た最も大きな財産は、卒業から10年以上経った今も強く感じている「つながり」、つまりICUの強力なネットワークです。それまで限られたコミュニティの中で生きてきて、アメリカ寄りの価値観を持っていた私にとって、世界中のさまざまな国・地域で育った個性豊かな友人たちとの出会いは刺激に満ちていて、視野が大きく広がりました。ICUの友人とは、今でも公私を問わず親しい交流が続いています。

学業以外にも、テニスサークルやボランティア活動、幼少期から続けていたクラシックピアノ、アルバイトなどに取り組んだ大学生活は、とても充実していました。特に2011年の東日本大震災の後は、「日本のために何かをしたい」という思いが強くなり、東北での学生ボランティア活動の運営に携わりました。この活動を通して私は大きなカルチャーショックを受けることになります。アメリカにいた頃、ボランティアは身近なもので、周囲も積極的に参加するスタンスでした。一方、日本でのボランティア活動は、時に「偽善だ」「自己満足だ」といった捉えられ方をされることがあったのです。

なぜ日本ではボランティア活動がネガティブに捉えられるのか?文化や社会背景によって何が違うのか?そのような問いを深く考えるきっかけとなり、卒業研究は「サービスラーニング(社会貢献活動を通した学び)の意義」をテーマに執筆。学生ボランティア団体での経験や卒業研究を通して、私の中にずっとあった「社会に貢献したい。人のためになる活動をしたい」という精神が、より強固なものになりました。


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写真左:夏季卒業式 写真右:テニスサークル「フットルース」秋合宿

妊娠・出産の経験から、女性のライフステージに寄り添うブランド「for her.」を創設

大学卒業後はファミリービジネスである自動車部品メーカーに入社。その後、新しいモビリティ事業などに約10年携わります。その後、コロナ禍で事業が一旦ストップしたタイミングで、妊娠・出産を経験。2021年にアメリカで出産した際、産後ドゥーラと呼ばれる専門家にサポートしてもらったのですが、この出会いが私の人生を大きく変えました。

出産前は陣痛や出産のことばかりに注目していましたが、産後こそ必要な知識やサポートがたくさんあり、日本ではそれが圧倒的に不足していることに気付いたのです。例えば、血行をよくする温かい食事や、炎症を防ぐための栄養摂取、母体のケアなど。産後は想像を絶するほど心も身体も辛かったのですが、幸運にも私は産後ドゥーラの方からそのような多くの知識を教えてもらい、仕事にも早期に復帰することができました。この経験を東京で話したところ、ICUの"ママ友"を含む多くの友人たちが、産後ドゥーラの存在や豊富な産後知識に驚き、大きな共感で盛り上がったのです。この時、私の中にずっとあった「人のため、社会のためになる活動がしたい」という思いと、「産後の女性をサポートしたい」というビジョンが結びつき、これこそが自分のやりたいことだと確信しました。これが、女性のウェルネスブランド「for her.」の立ち上げにつながります。

現在、for her.は、忙しい女性の健康をサポートするため、薬膳や東洋医学の知識をベースにしたレトルトスープの製造・販売を中心に事業を展開しています。特に出産祝いのギフトとして多く利用いただいており、メッセージカードや商品を受け取ったお客様から「涙が出ました」という感想をいただくことがあります。「母」になった女性への祝福という私たちのメッセージが届いていることに、何よりやりがいを感じます。「for mom.」ではなく「for her.」であることの意味は、女性のあらゆるライフステージを支えたいから。私自身、10代の生理痛、20代の流産・30代の不妊治療など、さまざまな局面で予期せぬトラブルを経験してきました。産後という枠にとどまらず、全ての女性の健康と生き方に寄り添えるブランドに育てたいという願いを込めています。そして、産後のトラブルや困難を「我慢する」のではなく、自分を大切にする価値観を、日本でも当たり前のものにしたいと考えています。


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写真左:for her.のスープ試作の様子。写真右:2025年秋、ロサンゼルスで for her.をローンチしました。

2025年7月、for her.はアメリカでも事業をスタートさせました。日本では「女性のセルフケア」を軸に、コミュニティ形成やイベント企画など、体験価値を高めるサービスへと領域を広げています。一方アメリカでは、産後ケアの分野を中心に、より実用的なプロダクトやサービスを通じてブランドの認知拡大を進めています。 今後も日本発ブランドとしての独自性を強みに、両国での事業を着実に成長させながら、女性のライフステージ全体に寄り添う新たな価値創造に挑戦していく予定です。

遠回りや失敗を恐れず、多様な経験を力に変えてほしい

私の仕事の根底には、6歳の時に亡くなった母方の祖父の言葉が強く影響しています。祖父が残した言葉の中で私が特に大切にしているのは、「利益はお客さまの満足料なのだ」という信念。ビジネスである以上、戦略やプライシングは重要ですが、結局のところお客様に心から満足していただくものを提供すれば、事業は自然と成長していきます。この信念を大切にして、今はスタートアップとして日々新しいことに挑戦しています。

ICU生やこれからICUで学ぼうとしている皆さんには、まず、ICUという恵まれた環境にいる以上、使えるシステムは全て活用するという貪欲な姿勢を持ってほしいと思います。特に留学プログラムは貴重な機会です。私自身は在学中ボランティア活動に注力し、日本語力や社会性を培いましたが、留学を選んだ友人たちは、そこで得た経験と出会いによって、その後活躍する幅を大きく広げています。

学生時代は、とにかく多様な経験をすることを大切にしてほしいです。学生の頃、周りの友人たちが具体的なキャリアプランを持ち、インターンシップなどに熱心に取り組んでいる姿を見て、自分にはビジョンがなく卒業後の進路に向けて何もできていないと、勝手にプレッシャーを感じて苦しんだ時期がありました。しかし、AIやデジタルの時代になった今だからこそ思うのは、多様な経験をすることの大切さ。その中で自分が何を感じ、その経験が今の自分にどう繋がっているのかをしっかり分析し語れること、自分の軸を持っていることがとても大切だと思います。人生の各ステージで環境も考え方も変わります。私自身、多くの回り道を経験してきましたが、その一つひとつが今の私を形作っていると実感しています。皆さんも遠回りや失敗を恐れず、一つひとつの経験を力に変え、自分の軸と熱意を持てる道を見つけて進んでいってほしいと願っています。


Profile

片山 有紗
for her.株式会社 取締役社長

2013年9月 教養学部卒業(メジャー:メディア・コミュニケーション・文化、マイナー:日本研究)

ICU卒業後、家業の片山工業株式会社に入社。「walking bicycle」の企画・開発などを担当。2017年、片山ホールディングス株式会社取締役に就任。2023年、女性のライフステージを支えるウェルネスブランド「for her.」を立ち上げ、2025年5月、for her.株式会社取締役社長に就任。同年7月アメリカにも展開し、日本の食文化や養生の知恵をベースにした「omamori soup」が人気を集めている。

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