卒業生の声

*肩書はインタビュー当時のものです。

*肩書はインタビュー当時のものです。

菊池 魁人 
Tactus AI, Inc. Senior Machine Learning Scientist
2014年3月 教養学部卒業(メジャー:生物学)

文系からロボット科学者へ。 たとえ苦手な分野でも 本当に学びたい情熱があれば、 リベラルアーツが全力で 後押ししてくれる

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ヒューマノイドの頭脳となるAIモデルの開発を統括

私は現在、アメリカ・カリフォルニア州にあるスタートアップ企業「TACTUS AI」のメンバーとして、医療検査現場で働く人型ロボットの開発に携わっています。アメリカでは、病院で採取された血液サンプルなどは巨大な工場のような検査施設に集められ処理されます。そこでは深夜の時間帯やピーク時には人手不足となる場合が多々あり、ミスが発生しやすくなるという問題がありました。当社はこうした問題を解決するため、人の手に頼らざるを得なかった複雑な検査作業を代行する「ヒューマノイド(人型)ロボット」を開発することを目標としています。私の役割は、ロボットの頭脳となり手足を動かすためのAIモデルの立案から学習、実装、現場調整までを統括し開発を進めることです。血液検査などの精密な工程をAIに学習させ、ロボットの作動に反映し、現場への実装を目指す開発作業は、無数の正解のない課題の連続です。

実を言えば、高校時代の私は数学や物理が苦手でした。それでも「科学者になりたい」という幼い頃からの夢を諦める気にはなれず、高校での専攻が文系でも自然科学系のメジャーを自由に専攻できるICUを志望しました。

入学後は人文・社会・自然科学の分野にとらわれずさまざまな授業を履修しました。どの授業も先生や学生との対話を重視しており、先生は私たち学生の考えを引き出そうとしてくださいます。印象に残っているのは「キリスト教概論」という必修授業で、「イエス・キリストは実在したのか」というテーマについて議論したことです。先生に真っ向から反対意見を表明し、脳がオーバーヒートするような白熱した議論を繰り返しました。そのなかで常に念頭に置いていたのは、「議論には自分の意見を曲げる覚悟で臨む」ということ。意見を貫くことにこだわって、ただのディベートで終わってしまっては何も学び得ないと思っていました。このことは、定量生物学という分野に出会って研究に没頭した学生時代、そして多国籍チームの中でロボット開発を進める現在においても、重要なコミュニケーションの土台になっています。

 

議論には自分の意見を曲げる覚悟で臨まなければ、何も学べない

さまざまな学問分野を横断しながら学びを進める中、私にとって大きな転機となったのが、基礎生物学の授業を担当されていた布柴達男教授(メジャー:生物学、環境研究)との出会いです。とにかく熱気あふれる先生で、生命の複雑な構造についてとても楽しそうに語られるさまに圧倒されました。また、ICU図書館で借りた書籍を通じて「システム生物学」という分野があることを知ったのも、ちょうどこの頃でした。システム生物学とは、生命現象をコンピュータによる解析や数理モデルを用いて理解しようとする最先端の分野です。著者はICUの卒業生であり、現在ソニーグループのCTOを務める北野宏明先生。「もともと関心があった情報科学と、新しく興味を持った生物学。両方をかけ合わせれば、独自の研究テーマを見つけられるかもしれない」。そう考え、布柴先生のもとで生物学を主専攻として研究することに決めました。

ところが、当時の学内にはシステム生物学に関する専門家がいませんでした。私は諦めきれず布柴先生に相談し、北野先生に直接メールを送り、会いに行くことに。布柴先生は、いち学生の我儘とも言えるような私の挑戦をあたたかく見守り、全力でサポートしてくれました。おかげで、布柴先生のラボで実験手法を学びつつ、北野先生のもとでシステム生物学を研究するという、生物学実験とコンピューター解析の両輪で学びを進めることができました。このときの経験のおかげで、東京大学での修士課程を経て、カリフォルニア大学サンディエゴ校の博士課程に進学し、ヘルスケアとAIの境界で働く、いまのキャリアが動き出しました。

また、ICUの週刊学生新聞「The Weekly GIANTS」の編集長を務めたことも、いい経験となりました。さまざまな案を持ち寄ってメンバーと議論を交わしながら編集方針を立て、限られた時間の中で企画、取材、執筆、発行までを行う毎日。もしかすると、このときの経験も、現在のAIロボット開発チームを束ねてプロジェクトを進めていくうえで役立っているかもしれません。

 

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(左から)ICU時代(2014年)、布柴教授のラボの仲間とICU本館前で再会(2025年)、布柴教授と(2025年)

自分の可能性を信じて、勇気ある一歩を踏み出してほしい

そうした学生時代を振り返って思うのは、「私はICUで本当に多くの人に支えられ、のびのびと学ぶことができた」ということです。そもそもICUでさまざまな学びに挑戦できたのは、年間100万円もの学費が4年間も給付されるPeace Bell奨学金をいただいたおかげでした。ICU入学後に、高校時代はどちらかといえば苦手としていた理系分野を基礎から学んだのですが、そんな私の様子を滑稽に思ったり笑ったりする人間はICUには一人もおらず、むしろ興味をもって関わろうとしてくれる友人ばかりでした。先生方の支えについては先ほど述べたとおりです。

今、進路に悩んでいる皆さんに、私から確信を持って伝えたいことがあります。それは、「今、苦手だと思っている分野でも、好きなら諦める必要はない」ということ。そして「暗中模索の中で経験したことに、無駄なことなど何一つない」ということです。一見、遠回りに見える寄り道や、迷いながら取り組んだ専門外の勉強、そして議論の末に自分の考えかたのフレームワークをアップデートする経験。その全てが、未来を形作るかけがえのないピースとなります。ICUという自由な対話と学びの大学で培う「バックグランドや考えの異なる人達と真摯に議論を交わす力」は、確実に皆さんのキャリアを支えてくれることと思います。ぜひICUで、何かの答えを見つけるのではなく、むしろ「よりよい問い」を見つけ、未知の領域に飛び込む勇気を養ってください。そして自分の可能性を信じて、最初の一歩を踏み出してください。

Profile

菊池 魁人
Tactus AI, Inc. Senior Machine Learning Scientist

2014年3月 教養学部卒業(メジャー:生物学)

ICU卒業後、東京大学大学院総合文化研究科へ進学し修士課程修了、さらにUniversity of California San Diego QBio PhD Program修了。定量生物学、微生物学、画像解析、機械学習を専門とし、枯草菌芽胞発芽機構の研究、がん病理画像解析AIの構築をテーマに研究を深める。現在はアメリカの企業TACTUS AIに在籍し、シニア・マシンラーニング・サイエンティストとして、医療現場で働くヒューマノイドロボットの頭脳部、AIモデルの開発に携わっている。

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